からりからりからからり……。
東の、果ての、砂漠の、真ん中、天に屹立するその塔は、翠玉色の、出で立ちで、まるでそれは玉虫の、背を貼り付けた外壁と見た。
塔に入るは二人の旅人。二つの階段を分かれて上る。天へと巻いた螺旋階段。昼も夜も区別なくして。
赤と青の大理石。細かく、急勾配の歪んだ階を、二人はひたすら上っていく。からりからりからからり……。塔の何処かで風見鶏、風に吹かれて回ってる。ぐるりぐるりぐるぐるり……。
二人の足取りの軌跡は砂を巻き上げて、塔の中で竜巻になる。
中二階の踊り場で二人は初めて顔を合わせた。
「はじめまして」と彼はいう。
「出会えて嬉しい」と彼女はいう。
握手と、頬でのキスを交わして、出会いを喜ぶ。
「貴方はどちらへ」と彼女はいう。
「頂上へ。この塔の」と彼はいう。
「奇遇ですね」また彼女がいう。
「まったくです」彼がいう。
二人は別れて、再び上る。女は赤を、男は青の階段を選び、遥か頭上の吹き抜けの先、奇妙な数字と記号の描かれた、天井目指し上り行く。切り開かれた窓から見える世界の風景、白砂の中に翠の木々。青白い水晶の泉を足許に、一陣の風に枝垂れた葉を揺らめかし、それ以外は時間の止まった不毛の地。
塔に響く、靴底と大理石のかちつく音。紛れて風見鶏、からりからりからからり……。何処かで生まれる竜巻と、砂に描くは螺旋の紋様。ゆっくり時間は廻り続け、雲を泳がせ、陽を遮る。翳った塔の内部に二人、別々の階で立ち止まる。まだまだ先は長い。塔の頭上の雲は晴れ、太陽がふたたび顔を出し、二人の足許を明るく照らす。
やがて陽は傾いて、二人の前で階段は途切れる。二つの階が集い交わる場所。展望台から、果てのない、オアシスが点在する砂漠を眺めて、もう片方の姿がないことを互いに知る。
寂しさが竜巻に乗せられ、風見鶏を緩やかに回すと、二人はそれぞれ階段を下り、再び、入口で顔を合わす。
「また会いましたね」と彼女はいう。
「お会いできて光栄です」と彼はいう。
そして二人は二本の階段を其々選び、
「今度は頂上で」
「会えるといいですね」
二人は竜巻に背中を押され、天に屹立する塔の、階段を駆け足で上っていく。今度こそ奇妙な螺旋の先、魔方陣の天井の下、方向示し廻り続ける風見鶏が、二人の姿を見つけるだろう。赤青どちらを選んでも、必ず塔の頂上で、めぐり会えると知っているから。
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