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 手のひらの海に、汐はまた満ちる。それまで待とう、死ぬのは。(皆川博子『ひき潮』より) ―――吉川楡井の狂おしき創作ブログ。

-週刊 楡井ズム-

   

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《短編》第77期感想

感想頂いてばかりでは申し訳ないので、未熟ながら各作品に感想を。
※ネタバレを大いに含みますので、まずはTOPから。
tanpen.jp/

なお、当方携帯からの書き込み故、タイトルが長いものは省略させて頂きます。作者の方にはご無礼をお許し頂きたく思います。

1:ラン・ホース・ライト
tanpen.jp/77/1.html
なかなかタイトルは良いと思います。これより相応しいものがあるのではないかとも思いますが。
作者名に由来するのでしょうか、前回の作品といい、死が基盤にある作品を書かれますね。その枠組みを是非突き抜けるようなものを書いて頂きたいです。
本作で気になったのは、男の年齢でしょうか。個人的には老齢の方が死を身近に感じ、長い人生の哀しみが違っていたように思います。
また、盲目であることが明かされる点も、もう少し驚きを生み出せる書き方があったかもしれません。

2:人間観察
tanpen.jp/77/2.html
人間観察により自身の心の汚い部分をあぶり出すという発想の転換は面白いように思います。ただこれはあくまで主人公一個人の胸中を見るだけなので、視点を広げ、誰もが持つ普遍的な汚さを感じられれば、テーマが一層深いものになったかと思います。
主人公と読者を重ね合わせるには不十分かと。
それと、これは意図的にやってるのかもしれませんが、句読点の使い方が好きにはなれません。
意図がないのであれば、最低限の文章マナーは守りましょう。

3:一滴の救い
tanpen.jp/77/3.html
これはなかなか良作かと思います。口語体ながら雰囲気が出ています。花魁のようないかがわしさ、淫靡、女心の冷たさ、嫉妬、欲望……。
何処かで感じたことのある雰囲気は否めませんが、筆力あってのものでしょう。
ただ惜しむらくは、義父との関係が分かり辛かったこと。これ以上書き込むと説明文臭くなるかもしれませんが、肝となる部分は如何にスマートに、如何に衝撃を与えるかで、作品全体の引き締まりも変わってくると思います。

4:明るい
tanpen.jp/77/4.html
悩みがないというのは、今の若者(自分も同年代ですが)に見られる特徴だとよく聞きますね。
虚しくも哀しくもない、なのに何処か欠けている、そんな主人公の闇が見えました。
それをも明るさをもって感じられるのは、妙な空空しさがあって、ユニークです。
感性のままに書いているような感じがしますので(それはそれでいいですが)、何処か自分をも客観視しているような、もう一段上の苦悩を描ければもっと印象に残ったかもしれません。
今の時代、苦悩とは内縮するものばかりではないと思います。

6:Bライン
tanpen.jp/77/6.html
これも『明るい』と同類の物語ですね。しかし、こちらでは悩みがはっきりしています。
自分の個性を理解されないというのは、馴染みがあります。モチーフに中年サラリーマンを出して来たのも、なかなか面白いと思います。
しかし、主人公の見る目が何処か老成しているように感じ、共感出来ませんでした。
これは相性の問題ですね。

7:紺色のマフラー
tanpen.jp/77/7.html
景色や物によって記憶が想起されるというのはドラマティックな話です。
ただ転校という出来事、マフラー、主人公の感情がよくあるパターンのように思えます。情景の刹那的な美しさは感じられますが、何処かにオリジナリティーが欲しかったですね。

8:水分茶屋
tanpen.jp/77/8.html
落語のような話は好きです。キャラクターも定石に添っていて味があります。
ただこれは自分の読解力のなさのせいですが、大体の話の流れは分かったものの、オチが示すおかしみがよく分かりませんでした。
機会があれば教えてもらいたいものです。

9:道
tanpen.jp/77/9.html
観念めいた話で、考えさせられます。超短編によくあるパターンかもしれません。
でも、なかなかこういう書き方は難しい。深く考えさせられることが出来るか、さらっと読み流されて終わるかの瀬戸際でもあります。
人生の縮図とでもいいますか、道が指示すものは分かりますが、あまりにスタンダードな話のように思えました。
この作者だからこそ、という点があればいいように思います。

10:尋問
tanpen.jp/77/10.html
これは目のつけどころが面白い。よくよく考えれば、人生において質問が蔓延しているというような見方も出来ます。マスコミの存在もそうでしょう。質問者はいつも不条理なのですね。
現代的な風刺の話としてよく出来ているかと思います。まあ、人物の設定は適当であるかの疑問はありますが。

11:ある雨の日
tanpen.jp/77/11.html
内容とは関係ありませんが、“…”と“・”というのは慣れていない方には見分けがつかないのでしょうか。
小説を書く上で、句読点と三点リーダの使い方は基本中の基本です。文章で作品の評価を下げる恐れがあるのは非常に勿体ないと思います。
さて、内容ですが、解答が提示されないので何とも言えませんが、バスの中は何処か異世界めいた雰囲気があり、舞台としては良いと思います。
作者の中でこの作品の答えは出ているのでしょうか。答えはなく幻想が持ち味ならば、文章を意識しましょう。幻想小説は文章で決まります。

12:観光地異聞
tanpen.jp/77/12.html
なかなかユニークですが、今のご時世、“異聞”とも呼べないことになるかもしれませんね。新世紀の『猿の惑星』はこんな感じなんでしょうか。
オチは“怪奇事件”ではないかなというのが第一印象です。
ただ冒頭、騒動のきっかけが面白いですね。

13:お茶っ葉な女の子
tanpen.jp/77/13.html
残念ながらオチは冒頭数行で予想出来ました(笑)
それからは、お茶っ葉らしい女の子の描き方を望んでいたのですが、うまく機能しておらず、お湯・香りなど官能的にも用いれるのにそうもならない。う~ん、もう少し。
ただラストのあっさり感は、よく表されてます。

14:ひとり暮らし
tanpen.jp/77/14.html
どうでもいいよなあ(笑)
非日常を描いたものが好まれるという訳ではありませんが、やはり1000文字という短い中で印象に残るのは強烈なフィクションのイメージ。
そんな中、日常に垣間見える奇妙さを表現したこの作品は、事実は小説より奇なりという言葉を数百倍希釈したような風合いか(ちょい違う)。
ただまあ、ラストは驚きより納得してしまいそうになりました。二度目に読むと、前フリが少しウザめに見えるのは如何ともしがたいですね。

15:若き兵器の悩み
tanpen.jp/77/15.html
テーマも書き方もよく出来ているのではないでしょうか。“兵器”という存在/犠牲となる命/使命を遵守する覚悟/……それぞれの“重み”がパラレル的に重なり合って、読者の胸中に苦味を残します。
ただ一つ、あら探しではありませんが、ラスト。
俗にいう【一人称で自分の死体の描写が出来るか】という人称の問題が生じています。
付加するアイディアを挙げれば、“兵器”という設定を拝借して、たとえば別れを惜しんだ開発者が“兵器”の意識を別のコンピュータに移し替えて(あるいは コピー)いたとすれば、“犠牲心”については印象が薄くなりますが、代わりに“罪の意識”が強く描けます。……というように読後、読者の想像力を刺激する 作品は名作だと思います。

16:続く
tanpen.jp/77/16.html
病んでますね(笑)
若者の苦悩を描いた作品は他にもありますが、中でもこの作品はよくまとまっていると思います。
日常を描きながら、まったく現実感を感じさせないドライな文章も効果的。
いつから始まりいつまで続くのか。迷宮に嵌っていくような息苦しさを感じます。
むしろ、まとまりすぎていてもう少しバラけても良かったぐらいです。

17:叶わぬ願い
tanpen.jp/77/17.html
これは……どうなんでしょうね。
小説作法もきちんとしていて小慣れていますし、こういう恋愛の描き方も面白いと思います。多少、既視感が漂いますが。
ただこれは地味に読者を選びますね。
何か日記を読んでいるようなこっ恥ずかしさがあって、年齢・性別で受け入れ方は違いますよね(当然ですが)。
何が嫌かと言えば、登場人物に魅力がないこと。街中でイチャイチャしているカップルを眺めているような気分と変わりません。恋愛小説を書くならそこを乗り越えるべきです。
20代男性の目からはそう感じました。女性目線ではまたきっと変わってくるのでしょう。

18:サードラブ
tanpen.jp/77/18.html
久しぶりのデータ……(笑)
これほど分かりやすい誤字は笑えますね。他作品でも見られましたが、誤字脱字はマナー以前の問題です。気をつけましょう。
さて内容ですが、なんというか主人公が若作りに背伸びしている感じが鼻につきました。まあ、気持ちは今も変わらないということでそこは流しましょう。
とりあえず、いい話ですね。

19:傾斜
tanpen.jp/77/19.html
これも観念的で分かり辛いですね。傾きと点と、相反する比喩を用いたり、分岐点の禅問答だったり、結局漠然としたヒントめいたものしか提示されず、真理はないのですね。
少し表現も内容もちぐはぐだった印象があります。
文章表現もおかしな箇所がありました。

20:セクシャルバイオレットNo.1
tanpen.jp/77/20.html
若い方はご存じないかもしれない(といっても筆者はS62年生。知識は年齢に関わらず)、往年の名曲と同タイトル。ということで何処となくバブルの香りがします。
内容との関わりはなるほど、と言ったところで、バイオレットカラーの鮮やかさで父親の寂寥感が際立ち、娘を性の対象と見ているところが一種の娘離れであるのでしょう。
娘を持つ方は、ますます共感出来るかもしれません。
なかなかの良作。

21:二世帯住宅
tanpen.jp/77/21.html
どんなホラーより救いのない、悲しき物語(笑)
実際にありそうなので、不安は倍増ですね。ただ素朴な疑問をひとつ。
子どもが女子だった場合、二世帯住宅にするのが適切なのでしょうか。婿を取るならまだしも、嫁いでいけば家を出るのが普通かと思いますが、なるほど。主人公の浅はかさが全ての原因なのですね(笑)

22:蒸しまんと粥
tanpen.jp/77/22.html
登場人物のとおり、中国幻想の現代版と言ったところか。故事で有名な『胡蝶の夢』のような夢幻と現し世の境を彷徨っているようで、独特な余韻が残ります。
閉じこまった現代人の精神のよろめきなのか、どうかは分かりませんが、決して夢物語では終わらないリアルな靄を感じます。

23:梅に猿
tanpen.jp/77/23.html
そぐわないものを並べることで、新感覚を作り出そうという心意気が良い。
少し浅めのマジカルリアリズムとも呼べそうです。
芸術品に触れることで創作意欲を掻き立てられるのは、我々物書きも同じですね。
四谷シモンならぬ人物が出て来たのには笑えました。可能であれば、人形だからこその魅力が欲しかったですね。

24:変態
tanpen.jp/77/24.html
これも癖があるものの良作ではないでしょうか。カフカの名作と出だしは同じながらも、『変態』をキーワードに物語自体がメタモルフォーゼしていく感覚がありますし、人外のものに変わっていくという根底の恐怖を感じます。
またいわゆる変態も含めたダブルミーニングでもあるんでしょうが、そちらの変態らしさが薄かったのでそこが残念です。

25:空間
tanpen.jp/77/25.html
原因や背景が見えないというのは、想像力を掻き立てるか有耶無耶のままで終わるかの諸刃の剣です。
それを連想させるヒントのちりばめ方が、肝心でもあります。
この作品を読んで、疑問を持たない読者はいないでしょう。それぞれの感じ方でいいと思います。無駄に大事を書き加えるより、このような終わり方の方がよりテーマが重みを持つのかもしれません。
こういう最期の描き方もありですね。

26:嫌
tanpen.jp/77/26.html
正直者の自己嫌悪ですね。全てではないにしろ、主人公に共感できる部分が誰にでもあるでしょう。
タイトルもインパクトがありますし、ストレートに届きます。
まあ、ただ病気や人種についての発言はやめた方がいいでしょう。正直に書き連ねれば共感を得たとしても、不快に思う同数の人々がいることを忘れてはいけません。
表現の自由は、他人の人権を侵害しない上で成り立ちます。

27:ホーム・ホーム・ホームレス
tanpen.jp/77/27.html
タイトルの繰り返しは意味が分かりませんが、話は現代の影を切り取ったものとなっています。
現実逃避は誰しもが思うもの。それを後悔として昇華させることで、皮一枚で堕落を食い止めたところが更に現代を生きる苦痛に続くようです。
プラス思考で終わりますが、主人公は普通に恵まれた人間だと思います。
エゴイズムと客観力の欠如は現代らしいといえばらしい。

28:R
tanpen.jp/77/28.html
タイポグラフィーは面白い。好き好んでゲシュタルト崩壊をしてみる自分の好きな題材。ガチャピンも好き。
ローマ字で書くと云々は理解不明でした。ガチャピンをローマ字で書くとということでしょうか。Rは入ってませんよね(笑)
難点を挙げれば、Rもガチャピンに見えなくもないし、CもZも想像の範囲内。Aは……妄想でしょうか(あくまで自分の中で)。
そんな風に表現可能なものなので、決して作中の彼女の想像力は逸脱しているものではないことが物足りない。
まあ、自分が彼女と同じ思考回路を持っているだけかもしれませんが(笑)

29:フォークロア
tanpen.jp/77/29.html
自分は昔からフォークロアという異国の言葉に多大なる魅力を感じる。
幻想(ファンタジー)でも御伽話(フェアリーテール)でも童話(メルヒェン)でもない、伝承(フォークロア)。なので真っ先に読んだ。
一読後、今回のトップはこれだと思いました(まあ全作読了後、それも少し変わってきたのですが)。
多少の齟齬はあるものの素晴らしいショートショート。

30:金子口輪社
tanpen.jp/77/30.html
うさん臭いタイトルが目を引きます。が、話は何でもないジゴロとその取り巻きの話。
取り巻きが口下手であることを表現したかったのかは分かりませんが、独特な文節は実験的。ただこの話で用いる必要性があったのかは疑問です。前述の動機であったならば、文体ではなく言い回しで表現することに挑戦した方が評価出来ました。
でも、キャラクターは個性的というか印象的。
水準は越していると思います。

31:青空(空白)
tanpen.jp/77/31.html
広大な青空を見上げると途端に自分がちっぽけに思えてくる、そのテーマは自分もよく作品に出す。
そこから鬱的なものが生じていく様を、ランドスケープ・シンドロームと勝手に命名しているがそれはまた別の話。
広大だから故に孤独を感じるとか、何かが欠けているかのように感じることには共感を覚える。
心の空白と重ね合わせること自体なかなか冴えていて、完成度としては今回上位に位置していると思う。
ナイフだのなんだの、チープだとも思いますが。まあコントラストが利いています。

32:とある二月の昼下がり
tanpen.jp/77/32.html
うん、まあ、よく出来てると思います。そういえば今日はバレンタインデー。こういう時事ネタを使ってくるのは好評価。自分はまったく思いだしもしませんでした(笑)
内容はまあ、ほろ苦いというか甘酸っぱいバレンタインデーの光景。
好みを織り交ぜれば可もなく不可もなく。あからさまなラノベのノリだと逆に目立ちますね。
でも印象に残るかどうかは別。ただし、感情移入しやすい文章と整った流れは、分かりやすくて良かったのではないでしょうか。

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性別:男性
職業:虚無員



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