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 手のひらの海に、汐はまた満ちる。それまで待とう、死ぬのは。(皆川博子『ひき潮』より) ―――吉川楡井の狂おしき創作ブログ。

-週刊 楡井ズム-

   

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《短編》第100期感想#3

http://tanpen.jp/100/all.html
☆=なんとなく完成度
★=好み


19:『不比較』 ☆☆☆☆★★★ (☆4×1.5)+★3=9
20:『水妖』 ☆☆☆★★★★★ (☆3×1.5)+★5=9.5
21:『恋の魔法』 ☆☆☆☆★★★★★ (☆4×1.5)+★5=11
22:『どっちにしても(略 』 ☆☆☆★★ (☆3×1.5)+★2=6.5
23:『カベさんの事』 ☆☆☆☆☆★★★ (☆5×1.5)+★3=10.5
24:『高橋是清』 ☆☆★ (☆2×1.5)+★1=4
25:『そうだ、そうなんだ』 ☆☆☆☆★★★ (☆4×1.5)+★3=9
26:『撮影旅行』 ☆☆☆☆☆★★★★ (☆5×1.5)+★4=11.5
27:『クレーンの夏』 ☆☆☆☆★★★★★ (☆4×1.5)+★5=11

19:『不比較』 ☆☆☆☆★★★ 
いい。いつもながら真面目にすぎる物腰が今回はテーマと合致していて面白い。"忘れたとは言わせないぞと自分につっこんだ。"なんてのはちょっと社会に出たとは思えないほど稚くてあれだけど、成長していく足取りが確かに見えて、微笑ましい。とは言え、優等生すぎて面白くない、という意味では面白くない。作中の視点が俯瞰したものながら、作者が客観的に作品を把握していないように見受けられた。つまりは、小説というより日記やエッセイの類としての魅力しか持ち合わせていない。「十善戒」の言及も具体的にしてこそ含蓄の深みが得られるというものだ。


20:『水妖』 ☆☆☆★★★★★ 
ものすごい好み。というか俺が書いてもおかしくない作品。退廃的な世界観と、夜の情景のなかのグロテスク。浪漫に永劫浸るであろう余韻。ところが、描写が説明的で、耽美さが失せているのと、時間の感覚を肌で感じないためか、行動だけ追って、世界に浸る余裕がなかった。たとえば、"月と夜が彼女の声を聴く。"という一文が静寂に包まれたこの世界の臨界点になるのだが、描写に厚みがないのでイメージ喚起がよくない。周囲の情景が濃ければ、それだけ行動や手中のものが鮮やかに感じ得る。バランスが悪いなと思う。


21:『恋の魔法』 ☆☆☆☆★★★★★
 
神よ、この感情が嫉妬と呼ぶものならば、これも一種の恋の魔法なのでしょうか……。とにかくまったくもって意味は分からないのだけど、その手が温か!とさすってしまいたくなります。こういう着想がほしいんですよ。柔軟性。
コントは嫌いじゃないし、ラーメンズだったり、83期高橋氏の『コント「ブランコと僕」』の影響もあってか、小説におけるコントとは何ぞやというものを模索しているんだけど、その極めてスマートな模範例を見た感じ。
スラップスティックでメルヘンチックでバイオレンスでポエティックで……この作風こそ誰にも真似できないと思う。エログロでチープでロマンティックでアルカイックな小生には太刀打ちできまい。いや、作品の中身はよく分からなかったのだけれど。


22:『どっちにしても(略 』 ☆☆☆★★
 
いつのまにかゴルフ作家ですね。どうなんでしょう。此処までくるときちんと作品に対峙しなきゃいけないなと分かりつつも、どんだけ読んでも頭に入ってこない。別にゴルフがいけないという話ではない。独特な味を持っているので、その波長が合えばたとえゴルフを知らずとも楽しめるのだと思う。けれど、合わないんだ。至極まともな物語運びだとは思うんだ が、あざとさだけが目につく。ゴルフ用語を解せぬからでもある。"ダボ"といったらフダツキーしか思い浮かばないもの。ごめんなさい。


23:『カベさんの事』 ☆☆☆☆☆★★★ 
いいですね。これが俗にいう肩から力が抜けているというらしいんですが、そんなことよりも語り口が最高に巧い。系統としてはオハラショウコ氏の『特技』と同じなんだけど、こちらの場合は実際に対象が作中に登場していないのにも関わらず、実在感が濃い。いや、ありえるかありえないという意味では逆だが、魂が入っているか入っていないかでいえばこちらに軍配が上がる。"もしかして、会社に住んでるんじゃ?"というサゲも、まあ、普通だけど、いちばんピンとくる。


24:『高橋是清』 ☆☆★ 
分からないです。物語をとおして伝えたいことも感じえず、ネタの重みも感じえず、いったいどのように受け止めていいのか分からない物語とは、同時に感想も持ち得ない。決して意欲として間違ったことはしていないと思います。これも『特技』や『カベさんの事』と同じ系譜だろうし、いやむしろ『植物のひと』に近いかもしれない。まあなんでもいいんだけど、中身こそ面白いとは思えないんだけど、あがいてもう少し面白くすることぐらいは出来たはず。
全体的に説明文(とはいえそういう形式の小説もある。本作はそれにしても内容が拙い)。キャラクターも弱い。感情移入っていうの、小生は特に重要視しないんだけれども、本作の場合移入するのは周囲の理事たちで、会長の厭らしさで如何に説得されようかってことになるんだろうが、"必死の弁明"で片付けられてしまうし、直前の会長の言葉では何一つ解決されていない。となると、これはあくまで第三者の目から、やり取りを見て北叟笑むしかないのだろうけど、ギャグにもなってなければ、楽屋落ちめいた近親憎悪ならぬ近親諧謔にしか思えぬわけで、第三者から見れば笑止の至り、的な。


25:『そうだ、そうなんだ』 ☆☆☆☆★★★ 
ポエトリー・リーディングとして素晴らしい。HIPHOPグループRomancrew『How To Fly』って曲でのエムラスタのフロウを思い出して、にやにやした。
"どこへだって歩いて行ける。何にだってなれる。" "さかさまがさかさまだ。立ち上がる。バルコニー、さかさまがさかさまだ。"
ここら辺、の踏み方とか。
"強くなる 強くなるんだ 羽根をいっぱいふって羽根がいっぱいぬけて 強くなるんだ 独立だ独立するんだ イニシアチブをこの手に"。(『How To Fly』)に通じる。
詩歌としては、説教臭いのが瑕だし、味でもあるのだろうけど詩の疾走感から言葉の端々がこぼれ落ちていて、緻密性にかける。一方で"お話をしてよ。"という詠吟の原動力たらしめるフックがあざといとも感じる。


26:『撮影旅行』 ☆☆☆☆☆★★★★ 
廃墟写真家(でいいの?)が現実から虚無へのあわいに入り込む瞬間を、雪山に立つ邸宅の辺りに満ちる静寂を通じて描ききっている。静寂を細切れにするノイズが最新の、つまりリアルタイムで浮世との橋渡しをしてくれるBGMである部分も気遣いが見える。ただ終盤のスローモーションが体感ではなく情報として提示されるところがもったいない気もするし、そもそもこの物語はもう少し長めの短編における、魅力的な導入部としての立ち位置が相応しいという予感も過ぎる。しかし今期で最も"冬"という季節を感じさせてくれた。


27:『クレーンの夏』 ☆☆☆☆★★★★★
 
微妙なSF設定てのは非常に好みで、描写も巧み。"クレーンの夏"という呼称に、憧憬と畏怖を感じさせるところなんかもおくゆかしい。一番脳内映像として心に残るのはこの作品かもしれない。
ただひとつだけ気になったのは人工太陽で、わざわざ人工などとつけるところ、親切し過ぎた気がする。贋物であるのを際立たせるためなのかもしれない。しか し、太陽がクレーンで吊るされるという妙味を愉しめれば個人的には満足で、むしろ人工とついた分、作り込みの堅さが出てしまった。
長閑な雪の町で、健気に暮らす人々の生活とは不釣合いかなあと思った次第。"音程はまるでサイレンの様相"、"百メートル余の高さから"だとか他箇所での 堅さと相俟って、ファンタジーに引き込むのか、先んずる技術でもって近代的なテイストを主流にするのか散漫になってしまったのではないか。

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