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☆=なんとなく完成度
★=好み
10:『うたかた』 ☆☆☆☆★★★★ (☆4×1.5)+★4=
10
11:『ぺったんこ』 ☆☆★★ (☆2×1.5)+★2=
5
12:『泡の子供』 ☆☆★★★ (☆2×1.5)+★3=
6
13:『スノウ・ホワイト』 ☆☆☆★★★★ (☆3×1.5)+★4=
8.5
14:『那由他と阿頼耶の狭間にて』 ☆☆☆★★★ (☆3×1.5)+★3=
7.5
15:『みさき』 ☆☆☆☆★★★★ (☆4×1.5)+★4=
10
16:『特技』 ☆☆☆★★ (☆3×1.5)+★2=
6.5
17:『おせっかい』 ☆☆☆★★ (☆3×1.5)+★2=
6.5
18:『SAKURA』 ☆☆☆★★★ (☆3×1.5)+★3=
7.5
10:『うたかた』 ☆☆☆☆★★★★
泡沫というものを目に見える形にするってのは、小生も思い悩むところで、本作にはしてやられたという思いが強い。夢をきっかけに、っていう切り出しが安直な印象を醸し出すのだけど、致し方ないのだろうなと思う反面、やはり夢と泡沫を切り離して考察して欲しいとも思える。
文章はとてもよく分かっていて、多少不親切(”子供”という単語の重複や冒頭の文章に力が入りすぎていることなど)なところも見受けられる。読者にとっては本作を読む行為が、夢へ誘われる現象に近ければ近いほど”うたかた”の儚さが、印象を深くさせていくのだけど、いつの間にか夢を見ていたと思わせてくれるようなスムーズな書き出しにはなっていない。だからこそ夢というガジェットを使わないで欲しくもあり、使うならとことん夢を体現させて欲しいなとも思う。
それから”名前を聞くのを忘れた。”という一文が気になる。”「うたかたですよ」”なる返答を名前と認識させてしまっても齟齬は生じない。そこら辺は区別しないほうが物語上の存在感は得られるはずだ。どこからどこまで泡沫に帰させるか、よりテクニカルであれば文句なしだった。
11:『ぺったんこ』 ☆☆★★
なんかおかしい。この手の文章は思うが侭を書き連ねるふうに見えて実は堅実な文章よりもテクニックと才能を要する。作者の気配りも。なんかおかしいと思ったのは、内容だとかキャラクターがどうとかではなく、ひとえに文章のほころびによるものだ。”つまし”という誤字より”猛烈腹立つ”のリズムのなさが遥かに気持ち悪い。
ラスト、”この胸いっぱいの愛を”とあるが、これは 「ぺったんこ」な胸と対応させて考えていいのかよく分からない。純粋に考えれば、「ぺったんこ」な胸ほど容量は少ないっていう、浅はかさを感じ取ればいいのだろうか。それはそれで煙たがられるのだろうに。直前”わたしはいろんな人に愛されて成長していく。"とあったって成長の経過も見えないし、自己欺瞞に過ぎないように思える。結局、「ぺったんこ」が活用できていると思えない。
ところで、個人的にやはり胸は巨きいものがいいが、かと言って「ぺったんこ」が嫌いというわけではない。巨きいなりの、「ぺったんこ」なりの嗜み方があ る。無性に「ぺったんこ」が恋しくなるときもある。傍らにあるものが「ぺったんこ」であれば、きっと時々巨乳が恋しくなるに違いないが、男の愛は胸の大きさに比例しないということを女性陣には早く気付いて欲しいものである。
12:『泡の子供』 ☆☆★★★
《短編》のシンクロニシティ。いわゆるカブり。『うたかた』とは違って幻想に逃げた感が強い。作品の感想を述べる前に、並盛りライスという作者への思いいれを明かそう。今から4~5年前。《小説家になろう》というサイトで小生が天沢竜哉として活動していた頃、企画でお世話になったことがある。それ以降も時に企画者として、時に読者として氏の作品に触れてきた。作者の安定し た幻視力には心躍らされたものである。そんな経緯もあり、今期参加者の中に名前を見つけたときは勝手ながら同窓会めいた感傷を抱いた。
本作を一読し、こんなに拙かったかなと思ったのが正直なところで、きっと1000文字に書きなれていないのも原因だろう。小生もそうだったが、1000文 字小説はイメージの切り出しのみで足り得るほどキャパシティは少なくない。文字数が限定されている分、余白に何を込めるかが重要だと思う。
そしてこの手の作品には空気感も必要になってくるはずだが、どうも幻想に傾くには未熟で、すかすかな印象も否めない。1000文字以上で発揮されていた氏の真価を如何に1000文字に落としこめるか、その技量を蓄えてほしい。小生も丸二年で分かってきたほどだから、胸を張って言えないのだけど。
13:『スノウ・ホワイト』 ☆☆☆★★★★
着想であるとか言葉えらびは目を惹くものでとても堪能した。けれど気になる点もいくつか。
"ネクロフィル”に人権がない世界において、"恋人の死体の一部を自分に移植するのが流行りの弔い"というのは説得力がない。"部分性愛者"というマイノリティを描くにも、とどのつまり自慰でしかないので、"学生の一団"によるデモ活動に勢いが負けているのではないか。マイノリティというのは社会的価値観によるものだろうし、そこから目を背けるのはテーマから逃げていることに値する。
語り手の"性愛”も総体的にみれば後だしジャンケンのようで、よく出来ている作品のように見えるだけで、実体はまさにつぎはぎだらけのフランケンシュタイン、それも綺麗とはいえない代物であるような気さえする。脱字もあったりして、996文字ではなく、1000文字に拵える余裕もあっただろうに、丁寧さに欠ける印象が際立った。
14:『那由他と阿頼耶の狭間にて』 ☆☆☆★★★
小生に対する宣戦布告か、アンサーソングか。それはさておき、扇風機の羽根の回転を輪廻、宇宙の真理、果ては思考の攪拌に繋げるという意欲作のように見受けられる。
『エンゼル・ハート』という映画で換気扇がメタファーとして扱われていたことを思い出したのだが、本作も扇風機ではなく換気扇でよかったのではないかと思ったり思わなかったり。まあ、回転も攪拌も作用するものは同じなのだけど。一般的に扇風機は風を生み出すものだし、換気扇は吸気して空気の流れを変えるような、そんな印象がある。"がらがらとした音”も扇風機より換気扇にこそ相応しい擬音だとも思う。まあ、自宅で唯一の喫煙スペースになっている自室において、冬でも懸命に羽根を回している扇風機は換気扇も同様である、なんていう個人的な感慨もあるのでそれはよしとしよう。
ラスト、”外は今日も快晴だ。"が大気圏までしか届いていないので、力不足か。まさに換気扇でもなければ、これでは宇宙の実存も喚起せん……てなギャグが誕生し、転じて俺の終わりを見せてくれただけで大いに結構。
15:『みさき』 ☆☆☆☆★★★★
"「芸能界」というの名の海水"。余計な"の"はさておき比喩として首を傾げる。海原ならともかく海水としてしまうのは茫漠に至らないか。というように表現の鮮度に過不足はあるものの、これはとてもいい。
二人のモデルの描き分けにも難はあるものの、出てくる文脈、佇まいや作用を分かっているから安心する。比喩に一貫性を齎しているからだろう。
最後の段落、夢の自己主張があまりに強いのだけど、"ビビデバビデブー"の潔さに救われた。枠組みとしては単なる夢オチだけれど、現実サイドに「芸能界」という非日常とのあわいを設えているから、虚ろな気配を夢に頼らずに、リアルな手触りを効かせている。季節感により印象付けるのも味付けとして抜かりない。
日常⇒芸能界⇒現実感⇒夢と蛇行する世界を魔法で丸め込んでしまうという結構も巧み。いかんせん最後の段落が欲張りすぎたきらいはあるものの、タイトルといい書き出しといい締めといい、手練としてやるべきことはやった感。
16:『特技』 ☆☆☆★★
奇をてらうことなく、いたって普通に描いていて、感触としては良好。
"僕にも、特別な能力はないものだろうか?"のエクスキューズが第一連で描かれる語り手と"山口さん"の対比に及ばないのも好印象。とはいえ極めて普通の枠を超えきれていないのが、他作品と並べたときに致命傷。ドラマチックに傾倒するのが素晴らしいとするのも誤りだけれど、好みが色濃く反映されるところなので、個人的には評価する作品の次点にしか配置できない。
17:『おせっかい』 ☆☆☆★★
これもとても巧い。投げやりな文脈が成功している。回答の提示も直接的ではなく、仄めかしで留めている点もいい。語り手の位置が終盤に至るにつれ後退していくのは効果的とも思えるが、語り手の反応があってこそ物語の回答が成立するものではないかとも思う。
やっぱりね、って思わせたいならこれで完結しているんだけど、それだけでテーマとするのは魅力に欠けていると思う。文体が作者の個性なのかなんなのか分からないが、巧さに独特な工夫が備わっていればいい。けど、普通じゃもの足りない。
18:『SAKURA』 ☆☆☆★★★
小生が戦線離脱してしまったので、エログロの血脈を受け継ぐのは最早高橋氏しかいないと思うこのごろ。
浪漫に浸る小生とは対照的に暴力的なところが高橋作品の特色で、小生を
宇能鴻一郎的(というか小生の場合、色んなものを集めすぎてどれがどれだか分からない。乱歩+式貴士+赤江瀑+牧野修+etc.)平山夢明的といおうか(言いすぎ)。
にしても、文章、小説を書くという行為に意識的なのは健在で、色めきたつほどに鮮烈になっていく激情はとても楽しい。静と動のバランスが機能していないことと、殺人を破壊とみなす風潮にいささか嫌悪している小生は、あまりこの作品が好きでない。
けれど、エログロに心酔してここまで生きてきた小生は、是非とも描写とともに物語の余白に、この意気のまま洗練に洗練を重ねて、《短編》を制覇してもらい たいなあと心から思うのだ。長々とした残酷描写が、"奥歯に開いた穴を吸って湿った音を立てた。"の一文に負けてしまっているのもいい。
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