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 手のひらの海に、汐はまた満ちる。それまで待とう、死ぬのは。(皆川博子『ひき潮』より) ―――吉川楡井の狂おしき創作ブログ。

-週刊 楡井ズム-

   

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《短編》第100期感想#1

http://tanpen.jp/100/all.html
☆=なんとなく完成度
★=好み

1:『おそらく』 ☆☆☆★★★  (☆3×1.5)+★3=7.5
2:『完全遮蔽物』  ☆☆★★★ (☆2×1.5)+★3=6
3:『穴と棒が(略 』 ☆☆★ (☆2×1.5)+★1=4
4:『山羊たちの沈黙』 ☆☆☆★★ (☆3×1.5)+★2=6.5
5:『植物のひと』 ☆☆★★★ (☆2×1.5)+★3=6
6:『大逆循環紙芝居(略 』 ☆☆☆★★★★ (☆3×1.5)+★4=8.5
7:『死神様だ~』 ☆☆★★★★ (☆2×1.5)+★4=7
8:『十四歳』 ☆☆☆☆★★★ (☆4×1.5)+★3=9
9:『茶柱』 ☆☆☆★★ (☆3×1.5)+★2=6.5


1:『おそらく』 ☆☆☆★★★
中高時代、小生は窓際最後尾の席を長く経験した。自由だった。だが実際窓の外よりも内側、クラスメイトを見る時間の方が多かったように思う。端っこはほんの少しの距離感ですぐに孤立する。それが心地よかったのか、あるいはそれが妥当だと思い込んでいたのか、孤立を俯瞰と勘違いしていたのか、それは皆目分からないが、当時これを読んでいたら今とは異なる感想を抱いていただろう。むしろ読むのを拒否したかもしれない。それだけ説得力をもっている。
文章を見ると、ヘタウマならぬウマヘタがどこからどこまで意識的なのか、その意図が必ずしも正しいとは思えない部分が、マイナスな意味で何ともいえない。『おそらく』というタイトルどおり、自信のなさを内と外から感じる。文脈と読解の内と外。


2:『完全遮蔽物』 ☆☆★★★ 
いわゆるテレパス能力の新機軸ともいおうか。単なる嘘発見器ともいおうか。その着想は感心した。結びに現れるのはどう考えてもパラドクスで、何の解答にもなっていない。皮肉なのか、これで。煙にまかれた感じ。
ショートショートとしてはオチが弱い。もう少し読者に迎合するか、本当に巧い一言にしなければチープさが際立つだけだ。
それと、もし斬新さを求めるのであれば、こういう着想によるものはいっそのこと論文形式にしてしまうなど、その文体を特異なものにした方がおもしろいのではないかと思う。それが正解とも思わないが、平々凡々な物語にするよりか、目につくし息は長い。


3:『穴と棒が(略 』 ☆☆★
アリスならぬ蟻巣ですか。こういう落差を求めた作品というのは割かし書きやすい上に、一定の感慨を抱かせるので悪くない。タイトル、オチ、展開、皆ばらついていて、どうも面白いとは感じ得ない。
funnyではあってもinterestingでないのはどうも。確固たる目的だとか意欲だとか、メッセージ性とはいわないまでも、面白半分というイメージを払拭できる何かがなければ、この手の作品は途端にからっぽになってしまう。
「行きなさいあなたたち、弟たちのカタキをトルノデス。」が誰の台詞なのか。怖くなったのは誰なのか。展開の、転回の、部分が、誤読を招く記述になっているのも残念。


4:『山羊たちの沈黙』 ☆☆☆★★ 
テンション高いなー。“ある羊”というのはタイトルがタイトルだけに”子羊”という意味合いを狙っているのか。深読みすれば山羊と羊がなにを表しているか想像もできるのだけどおそらく山羊は山羊であって羊は羊でしかないのだろう。対現実への説得力はいらないけど、物語としての説得力に欠けていて、オチに至るにつれて、山羊がマクガフィン化していくのがもったいない。前期の『しらゆき』と比べると凝り固まった印象。


5:『植物のひと』 ☆☆★★★ 
“バックパックひとつ旅にでる”……バックパックが旅にでるのか。などと思ったりして、そうでもないよなーとも思う。これは『佇むひと』ですね。なんかよく筒井作品を引き合いに出すのだけれど、それもまたどうなのだろう。
アタフタがアダプターに見える。それはさておき、《短編》ではときどきシンクロニシティが起こるのだけど、ユーチューブがうんたらかんたら言っていた『山羊たちの沈黙』のあとにこの作品が来るのは、神の作為を感じる。そういう時代なだけだろうか。
むしろ、動画をアップした後の周囲の反応が別のものであってこそ、この作品のよさは際立つのではないだろうか。具体的にどんな反応かは分からないけど、このままではとても凡庸な作品。情報の洪水に身を投じてしまう主人公の振る舞いが主題なのかもしれないけど。


6:『大逆循環紙芝居(略 』 ☆☆☆★★★★
 
1000文字小説のあり方としてはある種極北のような作品。抽象的な文脈を連ねて、積み重ねて、それでいてひとつの読み物として完成されているという手腕は評価できよう。作品そのもので作品を、己を批評するという精神は只事ではない(と言うのは大袈裟)、自慰とも受け取れようが。初っ端から迸る外連味は、最後の段落で救われている。けれどその技術・感性はほとんど内向的にしか発揮できていないように思える。
文学として失敗作ではもちろんないし、僕はとても堪能したんだけど、もっと素直に物語ってもいいのじゃないか。この鋭さをもちつつ、外側に向かって爆発されたら、どうも物書きとして冷静ではいられないなあと思う。


7:『死神様だ~』 ☆☆★★★★ 
巧いなー。けど、“人の生死。それは本当に美しい光景だった。”は直接すぎてつまらないし、どうせなら全編会話のみでいいんじゃないかと思う。まあショートショートの定型として良作。もちろん真新しくはないのだけど。
ただそう考えるともう少し洗練された形で読みたいなとも思う。たとえば全編会話のみでいいんじゃないかと書いた所以は、本作にはキャラクターの背景だとか 人生の深みだとかがまったく描かれていない。とても普遍的な物語だからなんだけど、普遍的な物語には感情移入って必要ないんですよ。
キャラクターとの同調とか意思の共有とか、そんなのなくても楽しめるから普遍的。本作の場合、地の文を入れることで主人公の視点が強調されてしまう。強調された視点を補うために感情移入ってのは行われるので、強調自体が蛇足なのではないかなと思います。
描写は重ねられるごとに印象を限定されていってしまうので、三人称は以ての外。そう考えると本作は許容範囲なのかもしれないけど、どうも個人的には気にかかる。まあ”俺はいつしか涙を流していた。”とか、挿入した気持ちは分かるけど。


8:『十四歳』 ☆☆☆☆★★★ 
面白さだとか巧さだとかはよく分かるし、毒の拙さ未熟さも十四歳というテーマに分相応。“愛という言葉にすでにアレルギーを持っています”っていわゆる心をがちりと掴むフレーズを出してきたり、全編に漲るいかにも冷めてます感は中二特有のエネルギーであったり、とてもとても良いのだけれど、ただこれを読んで感じるものは現役中二のブログを読むことで感じるものに勝れるかと考えたとき、どうしても作り込みが熱量を抑えてしまっているように思える。
断章が積み重なっていくことで、徐々にモチベーションが上がっていく気がするんだけど、すんなり読めてしまってどうも喉越しが良すぎたりもする。十四歳という年代に共感も脅威もなく、諦観しか出来なかったってのはやっぱり味わいが不足しているということだろう。
これが仮に十歳なら、見方も変わったかもしれない。中二という学年に固執しすぎたのだろうか。ただ、一読して、おっ、と思えたから、悪い作品では決してない。別にセックスって言葉に反応したわけじゃない。


9:『茶柱』 ☆☆☆★★ 
そこまでカニプッシュならタイトルこそ『茶柱はカニ』でいいのでないか。というか、これは意図を読み取れてないだからだろうけど、最後の“茶柱はカニだった。”に、ときめかない。それが言いたいだけ現象は嫌いじゃないけど、組み合わせとして微妙というか、パンチ不足というか、空気を楽しもうにも楽しませてくれない気配。「ワシ、長澤まさみと、どうにかなるかもしれん……」は 名台詞と呼びたいほど感触ありなのですが、全体的に普通の枠を超えてない。でも正月はこういう作品を読んでリラックスしたいという気持ちはある。

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