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 手のひらの海に、汐はまた満ちる。それまで待とう、死ぬのは。(皆川博子『ひき潮』より) ―――吉川楡井の狂おしき創作ブログ。

-週刊 楡井ズム-

   

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『愛のむきだし』



この完成度をみよ。

ユウ:盗撮行為を性的嗜好でなくマリア探しの所業とし己に課す男
キリスト教と穢れた神父像、折檻に等しい懺悔を強いられる息子を駒に、盗撮と女装という変態行為を変奏として歪んだホームドラマを描く第一章。
ヨーコ:男性性を悉く嫌い、謎めく女性・サソリに恋しては、背徳感に揺さぶられる女
親同士の再婚により兄妹となった転校生、勃起とオナニー、同性愛と青春の陰部を曝け出す第二章。
コイケ:恐るべき策略と狂気にて、性を武器とし、性を咎とし生ける女
血腥い過去と、多くの裏稼業、新興宗教という多肢と蠱惑的な容姿でもって、男女を姦計に陥らせる様を描く狂言回しの第三章。

三人の視点から織り成される交響曲は、映画史上稀にみる一時間に及ぶプロローグから、圧倒的なリズムと推進力で四時間一気に繰り広げられる。

スプラッター、百合描写、モザイク処理の頻出……B級テイストの合奏はキャラクターの躍動と伴って、
時にエロは究極のエロに、時にエロではなく人間のサガとして、
時にグロは痛覚を刺激する衝撃に、時に感情の爆発として、ドラマに沿って印象を変える。時にパロディ、時にスラップスティック、時にサスペンス・スリラー、時にサイコ。

日常から、逢瀬の海岸を経て、新興宗教のアジトへ、そして病院。

舞台が変わるごとに異なる物語を印象付けながらも違和感がない。
四時間という上映時間をまったく考えさせない構成も、緩急が手際よく拵えられており、面白い映画とは何か、物理的なストレスをも凌駕するものが物語りにはあるのだという宣言ともとれる。

それでいて、この作品は非常に分かりやすい。
キャラクターの感情がそのまま行動に、そのまま映像に、つまりは「むきだし」になっているからである。
ラストシーンの手がつながれるカットはそれを小聡明さも感じさせるほど完璧に仕上げてある。

アイドル映画という建前からして、映画好きのために発揮された手腕が、玄人限定つまりは映画通ばかりか一般観客にも差し伸べられている点、新たな娯楽映画の指針となるだろう。


脚本、演技、映像、映画を成型するすべての力点が一致した稀有な作品。

なのに腑に落ちないのは、巧すぎて、文句のひとつも出ないことだろう。

しかしこの作品が映画界で「むきだし」に評価されながら、一般には敷居を高くしてしまったひとつの理由でもある、重大なテーマに苦言を呈しておこう。

作品中に描かれる「変態性」は、無垢、背徳、没入、狂気、理知、共鳴と多面的に描かれてはいる。
「変態性」とはむきだしになる瞬間が最も輝く瞬間である。
最も輝く瞬間とは、客観的に観れば最も嫌悪を抱く瞬間でなければならない。
本作の「変態」は綺麗すぎる。
現実に存在する「変態」の汚らわしさがより鮮明に、浮き彫りにされてしまうという点、自他ともに認める「変態」である小生には耐え難いほどの苦痛。

この映画には、「変態」愛が欠乏している。
「変態」をなめるな! と言いたい。

という感想でもって、「変態」はさらに「変態」に近づけるという。

この映画は素晴らしい。
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