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 手のひらの海に、汐はまた満ちる。それまで待とう、死ぬのは。(皆川博子『ひき潮』より) ―――吉川楡井の狂おしき創作ブログ。

-週刊 楡井ズム-

   

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ターン

なにかのときに書いたもん。
NIGOは俺の嫁!!(嘘


爽 や か 度★★★★☆
非 現 実 度★★★★☆
原 作 姦 度★☆☆☆☆
総 合 点 88点

北村薫の“時と人三部作”の第2作目を映画化したファンタジー作品。昨日の同じ時間にターンしてしまう不思議な現象に翻弄される女性と唯一彼女と連絡が取れる男性の姿を描く。前作『愛を乞うひと』で各賞を総なめにした平山秀幸監督作品。交通事故に遭った真希(牧瀬里穂)は、事故に遭った瞬間、前日の同じ時刻に引き戻されてしまう。日常とまったく変わらない風景にみえるが、その世界には真希以外の人間は誰ひとり存在しなかった。同じ1日を繰り返すうち、1本の電話がかかってくるが…。



今でこそ牧瀬里穂といえば、猿の隣に……否、NIGOの嫁として認知されている、のかどうかは分かりません。
とにかく一線を退いてしまった感があるのですが、こんなSFファンタジー映画にも出ていましたということで。
でその出来はどうかというと、これがですね、すばらしいと思います。
日本のSF映画、それも原作付きの映画としてはかなりいいレベルです。平山秀幸監督といえば、僕のバイブルともいうべき『学校の怪談』シリーズの生みの親ということで、相性がいいなあと。
平山監督の作品にはどれも非日常のビジョンからにじみ出てくる日常感がありまして、『学校の怪談』シリーズにしろこの作品にしろ、それはどこかほのぼのとしたコメディになりきれていないのに表情が緩む人間ドラマにあります。それが作品として結集したのが『しゃべれどもしゃべれども』になる訳で、あれも良かったねえ。というのは別の話。

シナリオ面でいうと、まあ原作を巧くまとめたなと思えますし、前半の緻密さから言うと後半少ししっちゃかめっちゃかになっているきらいもありますが、ストーリーが進むごとにSFからホラー、ファンタジーと俄かに変化していく様相もあり、それもまた味なのかと思います。原作こそ国内のSF小説ではよく取り上げられる名作な訳ですけど、映像化してしまうとどうしてもファンタジーとしてカテゴライズされてしまいますがそれもまた功を奏しているようです。
ストーリーの根幹で言えば、
・主人公が事故に遭う。
・時間の狭間で一人きり。
・現実世界と唯一の接点である、電話がかかってくる。
・時間の狭間に飛ばされた別の人間登場。
・クライマックス
という風に至ってシンプルに、あちらの世界(時間の狭間)と現実世界のつながりも割りと違和感なく描かれています。もちろん世界の違いといえば自分以外の誰もいないってことに尽きる訳で、それ以外は基本現実世界と同じ。主人公も特に不自由なく生活できるほどです。
この生活の描写がなんとも言えない素晴らしい出来で、思わず行ってみてえ生活してみてえと思いますよ。同じ日が繰り返される、つまり天気も変わらないということで、庭に簡易(?)シャワーを設置したり、鳥のさえずりをラジカセで流したり、考えるだけでも楽しそうだなあと思いますし、それに主人公の知的な造型が加わることで、一層サバイバルにクリエイティブさが増しています。
その裏づけとして、誰もいない店で買い物をする時でも代金を置いていくという主人公の人柄があり、極めてクリーンな異世界生活を楽しめます。もちろん観ながら、もっとやりたい放題でいいんじゃないの?と思ってしまうのが人の性ですが、ストーリー後半で登場するあちらの世界に飛ばされたもう一人の人物(以下“ザ・北村一輝”)の登場と、その結末によって否定されているので、そこら辺の演出もきちんと処理されています。
“ザ・北村一輝”についての説明が若干不足しているようにも思えますが、主人公視点のこの映画(それもあちらの世界で初めて出会う人物、その素性については結局主人公に対しては説明されていない)ですからちょうどいいのかもしれません。

一方、それ以前に主人公は自身で作画した版画がきっかけで、自宅に連絡をくれた男性とも知り合っています。彼のくれた電話が異世界にいる主人公の元に繋がってしまう、という現象こそこの映画がファンタジー映画と呼ばれる真の所以であり、まったく作中では説明されません。そこに理由を求めるのはナンセンスですね。さて、キーパーソンとなるこの男性、これが主人公と似たり寄ったりの正直者の好青年で、現実にこういう二人がくっつくのはありそうでないと思うのですが(笑)。まあ彼の人物像があってこそ、件の“ザ・北村一輝”を際立たせるにはこれ以上ない陰陽の極みで、理解不能とも言える主人公と自分が置かれている状況にもすんなり入ってくることができるのも、詐欺被害者の常連にでもなってしまいかねない人の良さを持っていることで充分説明がつくという寸法。
唯一の連絡ツールである電話が、悪気なく第三者に切られてしまうというスパイスは、少々予定調和すぎるきらいもあり、それがこれといった意味もなく半奇跡的に復活するという流れはオチに繋がることもありませんが、状況の異質さを表す上では必要なのでしょう。

“ザ・北村一輝”と彼の蛮悪な人間性が描かれる後半の山場も、本作中のホラー要素を担うシーン且つ主人公を現実に戻させる重要な出来事なのにも関わらず、割とクリーンに描かれていて、メリハリがもう少し効いていれば、より楽しめたのかなあという印象。それでも冒頭から続く爽やかな物語から考えれば、閑散とした国道を“ザ・北村一輝”の乗る赤いスポーツカーが走ってくる場面などは、弛緩し始めた物語に刺激を与えるカンフル剤として機能していて、なかなか巧いんじゃないかと思います。
でも確かにあの状況だったら“ザ・北村一輝”と同じことをしてしまいそうになりますよ。普通の男は。ん、僕だけですか。そうですか。

とりあえず演技面では本当に本当にこれ以上ないキャスティング。
主役のNIGO嫁は、およそ現在のプライベートからは想像がつかない透明感、純度。これは現在あまりメディアに露出していないことが却ってその新鮮さを際立たせているのが皮肉なところで、在りし日の初代平成リメイク版である『西遊記』で三蔵法師を務めていた頃からすれば、随分と食傷気味に映ったかもしれません。もちろん彼女の透明感はデビューから往々にして語られてきた持ち味ですから、この映画にキャスティングされた理由もうかがい知れますし、ある種人気絶頂だった時期に放映されたともすれば、絶好の追い風となったことでしょう。もちろん設定云々は、アマチュア版画家というバブルの頃のアーティスティック主義が匂ってくるようなもので、原作から地続きとは言え古臭い感は否めません。けれども作中に登場する主人公の版画を含めて、ある種モノクローム的な落ち着いた絵柄と、印象的なシーンに沿って描かれる鮮烈なカラーとがマッチしていて、つくづく端正な物語だなと思わせられます。
前田愛嬢の夫(怒)演じる好青年は前述したとおりで、およそ役柄というより役者そのままというようなシンクロさに、むしろ合いすぎて設定がよく覚えていないという逆効果にも成りかねない状態。ただし、彼の役柄そのものは作品に大きく関わることではなく、それこそ彼だけが主人公と接触を図れたという設定に重きがある訳で、観ている分には気にもならず、植物園で擬似デートを図るシーンや夜景の見えるレストランにて擬似ディナーを図るシーンでは歯痒い気持ちを感じてしまいました。

さてさて、“ザ・北村一輝”。
キャスティングの妙といえば今でこそもう胡散臭くて気味が悪い邪悪な女たらしを演じさせたらこの男しかいないのではないか、とも思える“ザ・北村一輝”。ある意味、画面にこの顔が映し出された時点で、作品がどう運ぶか、この男が何をしでかすか、なんてのは想像も容易いのですが、想像できる分、主人公が彼と親しくなっていく様子にもう気が気でない、保護者目線は加熱の一途。ただあっさり主人公が彼の気味悪さに気づくので、そこら辺はもうちょっとハラハラされたかったかなあと。とは言っても、“ザ・北村一輝”ですから誰がどう見たって怪しいわけで、逆になんで主人公は怪しく思わないの!ってやきもきさせられるよりは良かったとも思います。

さて、設定が設定だけに如何なる方法で現実世界に戻るのかが一種の見所となってしまうのは致し方ないところですが、そこは至ってシンプルに、ドラマを演出する意図だけのために用意されているようなもので、センス・オブ・ワンダーを感じさせてくれないところがこの映画をSF映画とストレートに表現できない所以でしょう。
ラストで不思議なのはそのあまりにゆったりとした(ある種不気味な)シークエンスで、冒頭の爽やかさとは打って変わって煙に巻かれたような終わり方なんですね。余韻が残るといえば綺麗に聞こえますが、何とも幻想の風に吹かれたような尻切れトンボは拭えません。というのも、感動がないんですね。思わず息を詰まらせてしまうような静寂なシーンですから溜息を吐くのさえ、ドラマの邪魔になってしまうような心地で、それが引っ張られて引っ張られた挙句にエンドロールですから、少々収まりが悪い。
これはどのシーンにも当てはまるのですが、どうもシーン間ののびしろが不足しているような気がします。割とテンポよく転がっていくストーリーですので、本来であればのびしろがあると邪魔になるのですが、この作品の場合はシーンがシーンと連結しているところとそうでない部分の差が激しいため、まるで連続ドラマを見ているような気になってしまうのです。うまくのびしろを使って違和感のない構成にもできたはずなのに、どうも手薄。代わりにシーンそのものを長くしたり短くしたりとのびしろの機能を、シーンそのもので代用しようとしているから、どのシーンも断続的になってしまっていて、観客の感情をコントロールできずにいます。そのフラストレーションが最後の冗長な終わり方に集まってしまい、どうにも腑に落ちない。すべて朧気のままで、夢を見ていたような感覚、目が覚めたのにも関わらず今だ寝ぼけているような感覚で終わってしまっています。
総じていえば大変端正な作りで、とても爽やかな古きよきSFファンタジーを堪能できたと思えるのですが、細部を思い返せば非常にモザイク的な作りだなと思います。
SFを題材にした青春映画、人間ドラマとしては『時をかける少女』実写版などの名作にはおよそ匹敵しないものの、同種の邦画の中ではとてもハイレベルであり、こういう素材を現代扱っても洗練された味は出せないだろうなあと実感。あまりこの映画が認知されていないこともあり、SFといえばキワモノという方程式やロマンス一色の両極端を軸に作品を量産してきた洋画と比べて、ある種の日本特有のノスタルジー、土臭さをSFとマッチングすることに成功してきた邦画の歴史が失われては欲しくないと思う今日この頃でした。
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