手のひらの海に、汐はまた満ちる。それまで待とう、死ぬのは。(皆川博子『ひき潮』より) ―――吉川楡井の狂おしき創作ブログ。

-週刊 楡井ズム-

   

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ドグラ・マグラ

なにかのときにかいたも
点数テキトーだなー


戸惑面食 度★★★☆☆
堂廻目眩 度★★☆☆☆
怪  奇 度★★★☆☆ 
エログロ 度★☆☆☆☆
総 合 点 85点

ある日、一郎(松田洋治)は精神病院のベッドで目を覚ました。記憶を失っている彼の前に現れた正木博士(桂枝雀)らは、彼が殺人犯であるという。また、隣の部屋からは、彼が殺したと思しき妹(三沢恵里)の声が聞えてくる。何が夢で何が真実なのか、一郎の精神は混乱していく……。



原作は夢野久作の日本三大奇書にも挙げられる千二百枚に及ぶ幻魔怪奇探偵小説。論文や遺書、新聞記事、祭文歌により紡がれる本書は、読了した者の気を狂わせるとも言われています。
映像化不可能とも思われる原作を映画化したということもあり、ダイジェストとしてなら楽しめる作品。いわゆる一連の物語ではなく、概念やその反転の積み重ねにより作品そのものが構成されていた原作であるため、ストーリーとして並べられるとうわべだけのものになってしまうのは致し方ないところかなあと。
とはいっても半ば時代性によるものとは思われますが、全編にみなぎるキワモノらしさは特筆すべきものであり、観ているだけで郷愁めいたわくわく感がせき立てられるのだが……ただ、これも大人しく且つ紳士的に収まっているのだよと原作フリークは声を大にしていいたい。
特に死体の描写等は某サスペンス劇場ででも放送されそうなほど行儀がよく、それこそ物語の山場に相当すべきものながら淡々と描かれているので、思わず眠ってしまいそうになる。原作(角川版)表紙どころかDVDカバーのイラストにも劣ってしまう描写は物足りなかったなあ。同作者の『少女地獄』を映画化した『火星の女』とまではいかなくてもねえ。
もちろん原作にとっての“気を狂わす”要素というのはエログロの部分ではなくて、ある種哲学的な自問自答と与えられるヒントがあまりにアレである故で、裸婦の乱舞だとか死体の腐敗ドロドロだとかはなくても成立するということで、そこは譲りましょうか。
むしろ原作表紙やDVDカバーが違う意味でのアレ過ぎるんだよということもありますし。

役者はこれ以外にないというほどの適役ぞろいで、主役のアンポンタンポカン君に『もののけ姫』のアシタカ役といえば想像しやすいでしょうか、若かりし松田洋治氏。正木博士に落語家の桂枝雀氏。若林博士に『仁義なき戦い』等の室田日出男氏。にしてもモヨ子役の三沢恵理氏がなんといっても程よい透明感でいいではないか。未成熟とも見て取れる裸体は、生々しくなく芸術品のようです。はい。
正木博士のキチガイ地獄外道祭文シーンは確かにインパクトがあり、落語家としていい仕事してますが、苦言を一つ。
あのシーンは(厳密的に言えば原作では章が変わる事で、突拍子もなく祭文が挿入されるという作りになっているため、本来場面の一つとしては考えづらいんですが)……言葉ひとつひとつを拾っていくことに面白さがあるのだから、もう少し語り口が明瞭としていたらよかったかなとも思う節あり。なんて言っているか分からないのはただのガヤにしか聞こえない。もちろん映像的にはただのガヤだったんですが。あともう少し長く。原作のもういいよッッて具合に長々と綴られる祭文のパワーが感じられなかったのもなんだかな。

一番物足りないのはラスト。
治療場での殺人シーンはなかなか味のある場面だけに、ラストのラスト、アンポンタンポカン君がある一つの意味で覚醒してしまうくだりのシークエンスがあまりに洗練されすぎていて、いわゆる迷宮遡行感が薄らいじゃっています。窓から風がボワーッとか書類がブワーッと巻き上がるーッなんてのは圧倒されるんだけど、精神病院そのものの描写が少なすぎて、脳内迷宮と舞台上の迷宮がシンクロしない。つまりこれというのは、原作が持ちえた文章という迷宮を表現するに映像そのものを迷宮化しないといけなかったで、ラストの赤黒いシークエンスとか地下道めいたところとか精神病院の廊下とかセット臭がするならするで構わないのだけれど、もう少し抜け出せない感がないと、観客も“堂廻目眩”を味わえないのです。
つまりですね、おそらく原作を読み耽った訳ではない人間、究極読んだことのない人間が観れば“堂廻目眩”感覚を与えることが出来ることにはなっていますが、それは書き込みが不足しているが故のもので、本来原作が為しえた情報過多による“堂廻目眩”とは異なるものな訳です。まあ、この映画に興味を持つ大半が既読組である気がする、むしろあの原作を映像化!ってことを惹句にしているぐらいなので、もう少し気を使ってくれたらなあと。
ただ原作を読んだ者からすればあの原作をこういう形で映像化したってことだけでも評価せざるを得ず、改めて原作の凄まじさを再確認することが出来るという皮肉な結果。もちろん作品単体としては楽しめるものなので、これ以上求めるのがもはや野暮といったところではありますが、これで『ドグラ・マグラ』を語るなよというべきところですかね。ただこの映画を語る上で原作が必須であるように、『ドグラ・マグラ』という一連の作品を語る上で、この映画が欠かせないのはいうまでもない。
今の時代はさすがに難しいでしょうし、現代の技術や様式では逆にチープさが悪い方向に行ってしまうと思いますが、リメイクされれば面白いと思います。
観て損はなし!
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