家を失くしまして。
実家は東北のF県、片田舎でございます。都会に来れば何か新しいことが手につける、とそう思い込んでおりました。きっと都会に住むだけで、そう単純に考えておったのです。参った当初は、S区に1Kのアパートを借りていて、仕事もしておりました。区役所の臨時職で、自然団体が委託管理している区立公園の清掃の、早い話、アルバイトでございます。給与単価は安いながらも、色々と、人間関係が混雑しておりまして、苦痛の二年間でした。契約期間が切れまして、ついに私は途方に暮れたのです。貯金も尽きまして、家賃が払えなくなりました。それで仕方なく、アパートを出たのです。アルバイトのお陰で、公園の鳩の考えていることが分かるようになってきました。なけなしの食糧を分け与えるような真似までは出来なかったのですがね。公園の管理は厳しくて、どうも穏やかには過ごせませんでした。なのでちょっと歩いて、小学校を目指した次第です。
夏休みの校庭です。閑散としているなかに、倉庫が見えます。梅雨時でしたから、少しの間だけでも雨宿りの場所が欲しかった、という訳です。
寝袋を持っておりましたので、倉庫のなかの汚さとかは気になりませんでした。埃っぽいのも、寝袋に潜ればなんてことないのです。近所にコンビニエンスストアもありましたので、なんとか生きていられました。ですが運命とは皮肉なもので、何が原因でこうなってしまったのか、想像出来やしないのですが、いま閉じ込められております。
梅雨は去ってしまったのでしょうか。外は旱でしょうか。蝉も鳴き始めましたね。
閉ざされた倉庫の扉は相変わらず頑なでびくともしません。暑い、です。買っていた食糧も尽きてしまい、携帯電話なんて大層なもの持っておりませんので、助けだって呼べないのです。
指先が乾ききってしまいました朦朧とした日々が続き壁から床から伝わって参ります熱気がもしかしたら倉庫だと思っていたものは棺ではないのかと、私はいま火葬の真っ只中にいるのではないかと、ぐ、思ってますっ、お元気、天気ですか、血の沸騰、肉の旱魃、喉を血で潤すです、がは、結婚したいなあ、私は萎んでおるのです、臓器なら揃っております、世の糧に、にーにににー。
夏休み明け、立て付けの悪い倉庫の扉を開くと、隅っこに包装紙を丸めたようなものが転がっていた。
用務員がビニル袋に放り込むと、それは灰のように脆く崩れた。
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