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 手のひらの海に、汐はまた満ちる。それまで待とう、死ぬのは。(皆川博子『ひき潮』より) ―――吉川楡井の狂おしき創作ブログ。

-週刊 楡井ズム-

   

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H23.10.26 書店にて



なまづま (角川ホラー文庫)
穴らしきものに入る (角川ホラー文庫)

今日は午後休みをもらって、読書に耽りました。
ということで、第18回日本ホラー小説大賞長編賞・短編賞を受賞したこちらの作品。

実をいうと、来月はNOVA6も出るし、他にも買いたい本はあるし、ICE BAHNの新譜は出るし、金欠財政のいま、買うのはやめようと思っていたのですが、俺自身小説を書き始めて間もなくからホラーで生きていこう、と決意した手前、ましてやこの賞が執筆活動の目標でもあるわけで、SFやミステリーに逃げるよりか、惨敗をきしたホラ大の受賞作を読んで、襟を正さなければと思った所存。


まず、『なまづま』。
これについては作者がなんと同い年!!
ということで、余計に焦燥感に駆られてしまった挙句、ただこれまでの同年代の作品、紗央里ちゃんの家とか嘘神を読む限り、若さ故のなんたらだけが先行しているような作品ばかりだったので、どうせこれもそんな感じじゃねえのと高をくくっていれば……。
選評を見るとですね、各審査員が悪文だと指摘しているんですが、これと比べたら俺なんて極悪非道ですよということで、さほど悪くない。というか、たぶん思考回路は俺と似たような感じなのでしょう。身勝手ながらシンパシーを感じてしまいました。ヌメリヒトモドキというガジェットを思いついた時点で、これは勝ち。研究者としての視点も添えながら、夫の妻に対する執着を客観視させるような(あるいは、より掻きたてるような)とある諍いも加えることで、愛憎劇としてもなかなか愉しめました。
とはいえ、俺だったらヌメリヒトモドキにとある条件を追加してさぞや情感的な悲恋もので落とすところが、実際のオチは聊か尻つぼみっぽくもあり、読後感はちょっとうにゃむにゃ。
ただ繰り返すようですが、同年齢がこのような意欲的な!、作品を上梓することに若干の悦びと多大なるジェラシーを感じたのも併せて、長編賞には納得の作品。久々に次回作が楽しみな新人作家とめぐり合えました。
前回のバイロケーションといい、この年代はもはや若気ばかりではなくなってきたなと実感。これはのんびりエロ動画をダウンロードしている場合じゃないぞと襟を正すどころか、ふんどしを締めなおされることに相成りました。
タイトルもなんだかなーという気分なんだけど、他には思いつきそうもないのでよかったんじゃないか。
表紙もなんだかなーという気分なんだけど、下手にラノベ風味にされなくてよかったですね。まあ、そんな物語じゃないですけどね。


さて、一方の短編賞。『穴らしきものに入る』。
タイトルを見ただけだと怪談調のものを想像していたのですが、表紙から分かるとおりショートショートテイストのギャグ小説です。以上。


だけだと味気ないので。
『穴らしきものに入る』
『金骨』
『よだれが出そうなほどいい日陰』
『エムエーエスケー』
『赤子が一本』
とタイトルからしてふざけすぎている五編が収録されていて、そのどれもが表題作に引けをとらないバカ小説となっております。ねー。
あのね。

俺、これ好きじゃない。

傾向としては第12回短編賞あせごのまん氏の余は如何にして服部ヒロシとなりしかとか第14回短編賞曽根圭介氏の に収録された各篇のような笑いと恐怖が紙一重になった作品群に位置するんでしょうが、たとえば土俗的なモチーフを扱ってバカというより変態とも呼べる前者だったり、ミステリの手法を用いた上にストライクに現代を諷刺していく後者であったり、おかしみはあるんだけどそれだけじゃない。
前者にはそれこそ玩具修理者からバイロケーション、果ては前述のなまづまでもラストに表出する自己という存在の不確かさが描かれる(人間の根源的な恐怖!)し、それは短編賞受賞作の系譜である以前に、ホラー小説として常套も常套。
後者の猟奇犯罪・異常嗜好なんてのも現代ホラーにはなくてはないファクターだと思います。そのようにこれまでの短編賞はどこかしらホラー小説に対するリスペクトを持っていました。
前回の少女禁区だって確かにホラーというかファンタジー、夜市が認められたことによる異界小説の血脈の上でこそ成立したようなものなわけですが、併録作やその後の活動を見て分かるとおり生粋のSF者であった作者にしては、紛れもなくホラーのフィールドを見知ったうえで書かれたと分かるつくりだった。
で、ただ少女禁区にも言えたことですが、オチが最低すぎる。世界観を見事にぶち壊してくれた少女禁区と違い、穴らしきものに入るのオチは作品のカラーを逸脱しているとはいえないものの、まあ単なるギャグのオチにしか思えないんですよ。
でも、少女禁区が古来から根ざした異界小説のトレースを否定し、現代特有の遊びに満ちた作品であると思わせられたのは、カップリングが前述のオチの綻びを調整する役割をしていたわけでですね、じゃあ今回も併録作によって救われるのではないかとwktkして読んだわけですよ、でもどれもこれも本当につまらない。

意図的にだとは思いますが、冒頭の調子が合わせられていて、下記のとおり
『穴らしきものに入る』  よく晴れた日曜。
『金骨』  よく晴れた月曜。
『よだれが(ry』  夏。
『エムエーエスケー』  よく晴れた火曜の朝。
『赤子が一本』  よく晴れた土曜。

で、別にこれ自体はいいですよ。短編集としてはアリ。でも、それだけなんですよ。ただ似たような始まり方なだけ。中身には一切関係ない。どうせやるんだったらエセ連作形式というか、スターシステムでも何でもいいから、同一の主人公の一週間みたいな感じで、それで最終的に表題作のオチに繋がるのは分かりますよ。
特に最後の一編と表題作の関係は、読んだら分かります。この書き出し、収録順は意図的だってことが。
ようは穴から生まれ出てきて穴に入って死んでいく男の人生な訳ですよ。
だったら、中三本にも何か仕掛けて来いよ、と。
まあそれはくどいかもしれないので、置いとこ。いいよ、そんなこと。

俺が一番嫌なのはですね、これ作者の嗜好なのかあるいは嫌悪の裏返しなのか分かりませんが、収録された五編のうち、真ん中の一編『よだれが(ry』だけ女性視点なわけですね、その他みんな男性視点。
半ば作者の投影のような男が主役ってことですよ。で、それはいい。
あ、だから『よだれが(ry』だけ、夏。っていう書き出しなのね、だからわざと規律を破ってるのねと思える。だから結果、問題じゃない。

でもね! 他四編の主人公の男達!

本当にうぜえよって思ったのは、
どいつもこいつも偉そうにヘビースモーカー気取りなんですよ!!!
何かあるたび、ちょっと動くたびにタバコ吸うんですよ。んで最後のタバコだから買いに行ってもいいですかとか、今日一本目のタバコだぁ(以上、若干の虚飾あり)とか言うの。つまり、前述したとおりこの主人公達は意図的に似たような人物として描かれているわけですよ。じゃあ、それが仕掛け? ばかか、と。
もうね、何が嫌かってね、タバコ吸うシーン幾つかあるわけですけど、これ、
全然おいしくなさそうなんだよ


言っておきますけど、(今は諸事情により禁煙中ですが)俺も一端の喫煙者ですよ。そんな俺が喫煙シーンで嫌になるわけですからね、つまりタバコのシーンが出るたび煙たいなぁって思うの。で、まあそれは禁煙しているせいでしょって思われたら心外なんですが、そうじゃない!
問題は表題作!
この主人公、穴に入っちゃう主人公ですね、この男も喫煙者なわけですけど、序盤にですね、とあるところでタバコを吹かすんですよ。どこだと思いますか。


これがね、驚きですよ。






タクシーの中じゃい!
自分の車とかね、ハイヤーとか、私的な車内であればいいですよ。
でもタクシーはいまや全面禁煙なんだよ!!!
確かに、この作品が書かれたと思われる去年のうちはまだ喫煙を許可しているところがあったと思いますがね(参考:ココ)、でも発売は今年なんだからさー、ちょっと考えようよ。
今のこの世の中、喫煙者がどういう境遇に立たされているのか分かったら、こんなことしないですよ。書かないですよ。
そんなんだからね、喫煙者はのけ者にされるわけですよ。本作での描き方は喫煙阻害を助長する!! こんな描き方は喫煙者のエゴだ!!
みたいな。
ということでね、作者の方が喫煙か非喫煙か存じませんが、本当に作中人物のようにタバコを愛しているんだったら、もうちょっと描き方を考えてください。タバコが嫌いなようにさえ読めますよ、これじゃ!
今、俺たちが世間からどんな風に見られているか、そんな中でじゃあ俺たちはどんな喫煙ライフを送っていけばいいのか。百害あって一利なしのこのタバコに癒されていた日々は、それこそ筒井康隆氏『最後の喫煙者』のように皮肉によってのみ受け継がれていってしまうのですよ!
よって、俺はもうこの本に580円出したことに本当に後悔しています。
だったら、440円のタバコ買えばよかったよッ!!

そんな感じじゃボケ。
作品としての感想なんか覚えてないがな。
なにが大日向太陽光だ、なにが七鉄だ。


はっきり言って、『なまづま』は(ちょっと躊躇はありますが)超オススメ!
『穴らしきものに入る』は、まあ、健全な非喫煙者である方々にオススメです!
ちなみに『穴らしき(ry』はまったくもってホラーじゃありません!
これがホラーだったら、もう大概の小説はホラーなんじゃないのって感じです。

それから『なまづま』にも言えたことですけど、誤字脱字がありすぎ!
たとえばいちばん初歩的なところ挙げると、
『なまづま』の冒頭に、
“高熱にうなされ霞んだ頭"うんぬんってあるけど、熱だったら“浮かされ”でしょうが!
本来は高熱も誤り、”熱にうかされる”が正しいわけで、じゃあ百歩譲って、高熱が出て魘されたってことですか。
だったら、せめて高熱"で"うなされにせい!

『穴らしきものに入る』では、さも当然のごとく
"魔が刺す"なんてありましたからね!
刺すのか、何で刺すんや、アイスピックか爪楊枝か注射針か!
"差す"でしょ、そこは。
どっちも間違えやすさではメジャーな方ですよ。もうきりがない。バカか! ほんとに。


あと今年のホラ大について述べたいことも多々あるのですが、それはもういい!
とりあえず、今年も11月末締め切り。
本当にね、分かりませんよ、今のホラ大は。

でもいいよ。ついていくよ。
俺は角川ホラー文庫に育てられたようなものだからな。
でもせめて、短編賞は復活してくだちい……。


以上! バカッ!



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