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 手のひらの海に、汐はまた満ちる。それまで待とう、死ぬのは。(皆川博子『ひき潮』より) ―――吉川楡井の狂おしき創作ブログ。

-週刊 楡井ズム-

   

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『インセプション』についての蛇足




観賞メーターにて、ひととおり語ったところでしたが書き洩れましたのでこちらで。

『インセプション』については、今さら語ることが気恥ずかしいぐらいにいろんなところで考察されていて、それらを眺めてなお楽しめるという最善な映画体験をさせてもらったんですが、気まぐれに観賞メーターなんぞを始めた暁に観直したら、また幾つか考察というか思い付きが生じて、考察サイトも調べたのですが説得力のある言及がなかった。

もっともオチがどうとか、鏤められた記号がどうとか、ストーリーがどうとか、エレン・ペイジがどうとかは僕の観賞メーターや考察サイト(一番、信頼のおけるサイトはこちらでしょうか)を参考にしてもらって。

もう色んな考察のインセプションを受けてなんでもよくなってしまった結果、この映画のオチは夢か現実か否かなんて糞くらえ! こりゃ単なる死後の世界なんだ! ってのが持論なんですね。
もちろん半分冗談ですよ。半分。半分憶えてる夢。はい。


それで、ちょっと観賞メーターに書き洩れたことというのは、本作の構造についてです。
そもそもこの映画がまどろっこしい理由は、物語上の目的が追いづらい部分にあると思います。

メインの目的はロバートへのインセプションなんですが、冒頭から挿入されるのはアリアドネの顔に皺を浮き立たせて五歳老けさすまでに(私観)コブの精神状態がむちゃくちゃであり、いかにしてコブがむちゃくちゃな状態から復帰するかというバックボーンがあったりしますね。
で、ロバートの件は無事完了、且つ、コブも妻モルの投影を撃ち殺して、解放。となるわけですが、コブはサイトーを救うためにリンボーに残ってしまう。
これを見るに、この映画は三つの要素で出来ていると考えられます。
ロバートへのインセプション、モルからの解放、そして、サイトーとのひと悶着。
最後のひと悶着については、モルからの解放とはまた別な、より現実的な理由(子ども達の元へ実際に戻るため)が付加されているので必要といえば必要なんですが、『ダークナイト』のハーヴィー・デント(トゥーフェイス)の一件的な、まあ必要だろうし加えたい気持ちも分かるけどもうちょっとなんとかなんなかったのかって部分にあたるでしょう。

でもね、さすがノーラン。レイヤー構造というこの映画特有の持ち味を生かして、ちゃんと仕組んでおりますよ。
最も気になった部分っていうのは、なんで冒頭いきなり老けメイクのケンワタナベで始まるのかってところなんですね。出てきたかと思えば、意味深な問答交わしてすぐにシーンは切り替わり、エクストラクションのシーンになる。なんだなんだと思うわけですよ。
で、これまた意味深にモル登場。誰だこの女は……
モル「ここから飛び降りたら云々」
コブ「飛び降り方によるだろう」
なんだなんだ。この二人はどういう関係なんだ。なにがしたいんだなにが、と思ってたらモルがサイトーに味方してドンパチ合戦ですよ。え、え、え、ですよ。

でね、結局何が言いたいかというと、第一リンボー(便宜上こう表現しときます)において、ロバートのインセプションと付随してモルからの解放が終わるわけですから、『惑星ソラリス』などを引き合いに出されて語られるような幽霊屋敷物としての文脈は第一リンボーで決着がつくのです。普通であればそれでエンドロールでもいいはず。けれども本作はそうじゃなくて、より現実的な帰還を必要としている、子どもたちの元に戻ると理由ってのに現実味をもたらせるため、サイトーという存在を最後のミッションにしているわけですね。
つまり夢から覚めた現実だけではまだ足りないぞ、と。そこから先、もう一個クリアしなければならないものがあるよと。もちろん、これはサイトーからロバートのインセプションを請け負う際の条件ですので、全然問題はありません。なおかつ、サイトーの救出を物語構造として必然とするために、冒頭に老け顔のケンワタナベ+子どもたちの投影を持ってきているのです。

つまり、本作は中心にロバートのインセプションとモルからの解放が表裏一体となった物語があって、それを挟み込む形でサイトーを軸とする子どもの元へ戻る、極めて現実的な帰還の物語があるわけですね。
さすがノーラン! 色男! 

ところがこれは一度観ただけではなんのこっちゃ分からないんですね。そこが傷です。
必要なものだけ揃ってるんだけど、整理もされているんだけど、なんか余計にごみごみしているみたいな感じでしょうか。

でまあここだけ取り出せば、ああそういう話かで終わってしまうんですが、色男ノーランはもう頭でっかちですから観客を愉しませようととんでもないものを残しちゃうんですね。
それがラストの独楽(トーテム)だったり、そもそも子どもたちの存在って……え、崖のうえのお家って、何?みたいな部分なんですが。
まあ、ラストはですね。ほぼ確実に夢ではないんですよ。それは色んな考察を積み重ねてもそうだし、ノーラン監督は絶対そこを現実だと踏まえた上でああいう作りにしてるはず。だって、あのラストにおける夢か現実かの区別は観客に対してしか意味を持ちませんからね。独楽が回り続けようが倒れようが、コブにとってはどっちでもいいんですもの。

ただ夢ではないって表現したのは、これが現実でもなく、死後の世界っていう解釈が出来るから。
というか、もう僕はそれしか考えたくない。もしそうだったら……おーーってなるじゃない。性格悪いなノーランって思えるじゃない。
結局のところ、この映画の本質は町山評にあるような『マトリックス』的現実感、無限後退の恐怖にある。『シベリア超特急』ホラーですね。
なぜその落とし前を、死後の世界なぞというよりブーイングを招きかねないものと受け取りたいのかというと、観賞メーターにも書いたとおり、「戻るためには死ぬしかない」という言葉に感化されたわけですが。

「戻るためには死ぬしかない」というのは、実質、モルに行われたインセプションを裏付ける文句で、コブ自身はそれに従うことなく戻れたんだという向きが常套かと思います。だからこそ、サイトーを説得することも出来た。
だからですね、死後の世界なんてのはラストが夢か現実かどっちどっちと騒がれているのに嫌気が差した僕の単なる暴挙ですからどうでもいいのです。ほんとんとこ。(怒らないでください)

死んでる、なんていうと、第一階層にメンバーが戻ってきたとき(水中に沈んだ車中)で、目をうっすらと開けたケンワタナベがなんとも言えないホラーなんですけど、この死ぬっていうこととリンボーに行くってのが一緒くたに語られるから余計分かんないだこの話は。

さてさて、話の構造についてでしたね。
長々と語っといていきなり単刀直入に言いますが、コブとサイトーってはっきりいって物語上、ものすごく邪魔なんですよ。本当に役立たずです。
コブのせいでモルの邪魔が入るし、夢のなかで死んではいけないって大事なこと隠してるし、そのくせアーサーを調査不足だなんつって頭ごなしに非難するし、俺お前嫌い!って思った人は多いんじゃないでしょうか。それでも主役を張れるんだからね。
サイトーはサイトーで観光客然としてほいほいとついてくるし、なんか知らんけど撃たれてるし、リンボー行って老けてるし、冒頭じゃあなんかこのおっさんすげえ感びしびしなのにどんどん萎れていく様、何度観ても苦笑ですよ。というか初見時は、サイトーがキーパーソンだなんて誤報を信じていたからてっきりラスボスはこいつだと思って拍子抜けしましたからね。まあある意味ラスボスでしたけど、お前それただ迷惑かけてるだけじゃないかっていうね。

んでこの二人、つまりはトリックスターなんですよ。物語を引っ掻き回す達人。そういう宿命を背負ったキャラクター。
だからそう考えると、第二リンボーでの問答なんて特にこれといった爽快感ありませんでしょ。散々引っ掻き回しといてなにしてんだよ早く戻るなら戻れと。意外とあっさりしている場面でしたから、監督もそう思ってたのかもしれません。

とすると、半分憶えてる夢。これはサントラの一曲目。冒頭のシーンに流れるスコアの曲名であり、チャプター名でもあるはずなんですけど、なんだよ半分ってってことになるじゃないですか。これ、コブとサイトーで半分半分ってことにしときたいんです。二人揃って一人前。言うなればあのシーンは自己への対話に近しい部分もあったんじゃないでしょうか。こじつけですが、互いは互いのアニムスだったのかもしれません。
夢がモチーフとされていることだけあり、夢占いや心理学的なアプローチでこの映画を語ると面白いと思いますが、そのような評論は見かけませんね。挑もうかとも思いましたけど、挫折しました。

ただひとついえるのは、この映画が紛れもなくコブ、サイトーを鏡像として示せるだけの外の視点から語ったときにはじめて無限後退の恐ろしさを語れるものだということです。
本作の源泉はボルヘス『円環の廃墟』にあり、個人の人生が他人の見ている夢ではないかという恐怖にある。
そんななかで生み出されるドラマというのは一人の男が、自身の信念と努力によって再起するという話で、結局誰が見ている夢だろうが、そのなかで頑張って確たる幸福を掴んだんだからいいのだ!というのが込められたメッセージなのでしょう。だからコブは独楽に振り返らずに終わるのです。

とはいえ何度も言うように、そこら辺を含めた諸々についても論理の積み重ねが過ぎた結果、中途半端かつ複雑、思わせぶりな結末に陥ったことが本作を名作へと昇華できなかった最大の欠点であり、最大の面白みなのでしょう。






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