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 手のひらの海に、汐はまた満ちる。それまで待とう、死ぬのは。(皆川博子『ひき潮』より) ―――吉川楡井の狂おしき創作ブログ。

-週刊 楡井ズム-

   

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『穴』

[解題]




昨年小学校に上がった娘だが、インターネットで暇を費やすことが増えてきた。子どもなんだから……と吹き込んでも、友人たちの話についていくためだと言う。私も公私ともに世話になっている身だから、悪影響のあるサイトへのアクセスを拒否するサービスに登録したものの、PCに噛り付く娘には見てみぬふりをしていた。
 
 娘を寝付かせるのは私の仕事だった。近頃は思春期に差し掛かったのか嫌がられることも少なくなかったが、その日は娘の方から添い寝をねだってきた。
 「学校の下には、お墓が埋まってるの?」
 暗い室内で唐突に娘が切り出すから、私はどぎまぎしてしまって、半ば叱り付けるように「誰から聞いたんだ、そんな話」と声を上げた。
 「みんな知ってるよ。六年生の人が穴を見つけて、中に入ったんだって」
 私は随分昔のことを思い出していた。小三か、いやもっと前か、少し大きな地震があって校舎の裏山が崩れたことがあった。岩陰に当時の私だったら通れるくらいの穴が開いていて、じゃんけんに負けた私はその穴に潜り込んだのだ。穴のなかは徐々に広々として来、やがて六畳ぐらいの空間に着いた。十数の墓石が並んでいて、土砂で巻き込まれたのかと思ったのだが、ちっとも薙ぎ倒された様子もなく――まるで最初からそこにあったかのように見えた。辺りは進むのも気が引けるほど暗かったのだが、確かに墓石の陰に何かがさがさと動いていた。無心で引き返して穴から飛び出すと、友人たちは校舎に戻っていたようで、穴の周囲には誰もいなかった。あとで皆を問い詰めたが、友人たちのしでかした悪戯は私を置き去りにしたことのみで、穴のなかの墓場についても知らないし、先回りもしていないという。現場を見に行くと土砂が寄ってきていて、岩もろとも呑みこんでいた。二週間ほど休学になり、復帰した頃にはそんな話も忘れてしまっていた。
 当時も学校は墓地のうえに建っているという噂は常套なものだった。時代は変わるが、受け継がれるものもあるのだ。娘の様子と個人的な記憶が相俟って、すっかり気になった私は電話で確認したのだが、娘の学校では穴が見つかったという事実はないらしい。娘に情報源はどこだと問い質すと、掲示板――ネット上に学校ごとの裏掲示板があるという事実もまた驚きだが――だといい、確かに穴についての書き込みがここ数日増えていた。
 妙な心持ちに惑わされてしばらく私は遠退いてしまったが、数週間前に起こった大地震の混乱が落ちついてきたのと同様に、娘も級友たちも穴なんて嘘だという見解が一致したらしく狂騒は薄らいできたようだ。娘が寝た後、掲示板をちょっとだけ斜め読みをした。穴についての書き込みは減っていたものの、不憫なほどにただひとり、穴は本当にあった、墓場を見たと言い張る書き込みがあった。親近感よりも、横取りされたような気がして、私はそれきり訪れていないのだが、娘は相変わらずネット中毒である。

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