また一つ、機械人形をぶち壊す。この手で。この醜い俺の機械の手で。
人間は機械人形を造りたがる。身の回りの世話、介護、パフォーマンスなどあらゆる目的のために、自分たちの姿そっくりの人形を造り、希望を得る。まるで神にでもなったかのように。その一方で、たとえば護衛用の人形が暴漢に破壊されたり、救助用の人形がビルの崩落に巻き添えになる度、無残な機械人形の姿を見て、悲嘆するのだ。まるで愚かしい。何故、自分たちの姿を真似て造るのか。何故、道具でしかない機械人形に命を吹き込もうとするのか。
理解できない。自慰だ。科学に溺れる夢遊病者の戯れに過ぎない。したがって俺は同じ腕で機械人形を絶え間なく潰している。
無に帰れ、機械人形たちよ。俺は無残に朽ちるお前らの姿に、感傷など湧かない。貴様らを破壊したとて、心は痛まない。それこそ人間に言わせればロボットである証明の何物でもないだろう。恨むなら人間を恨むがいい。貴様らの神――人間を!
俺は部品の散らばった床を眺め、怒りと恨みが混沌としていくのを改めて感じた。
神は裁きを下さない。人間は機械人形に情を移しても、神は人間に――その他のものに、情は移さない。
それが世界のすべてだ。不条理に満ちている。
ならば、俺が裁くものとなればいい。この不条理なる世界を、不条理なる運命を、不条理なる方法で、断罪し、滅ぼしてみせよう。そう、思い立ったのだ。
機械人形たちに罪はない。だが、人間たちのために生み出され、人間たちのために滅び行く、それが機械人形の運命であるならば受け入れるのだ。すべては人間が齎した結果。
俺も受け入れよう。自分自身の運命に。
人間が創造した自信作はおおかた破壊した。次は、神の自信作を破壊する番だ。
終末の悲劇だ。人間たちよ。
俺なら許される。
俺なら殺せる。
黄土色のケロイド状の肌。無数の関節から突き出る腕。長短硬軟さまざまな指。腫れ上がった頭蓋。頭頂の周囲に並ぶ眼。人のものとは思えないこの図体なら、誰もが許してくれるだろう。
神よ。
俺は貴方がガラクタを寄せ集めて造ったロボットだ。平和のために人間には手を出さない。その長年の戒めを破り、この運命を貴方の自信作を破壊することでもって、封じよう。
精巧に造られた人間たちが、俺の腕を使い物にならないほど傷付けた挙げ句……数少ない俺の仲間たちを“化け物”と呼び、殺戮したあの日のように――。
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