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 手のひらの海に、汐はまた満ちる。それまで待とう、死ぬのは。(皆川博子『ひき潮』より) ―――吉川楡井の狂おしき創作ブログ。

-週刊 楡井ズム-

   

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『海魔の死んだ日』

[解題]
これを進化と結びつけるのは、幻想に頼りすぎなのかもしれない。“雛や幼虫、稚魚”という部分だけでも、海魔の特異性、進化の驚異を感じていただければ幸い。
本当は田鼠と書きたかったのだけど、読みやすい、一般的な土竜となっていることだけ不満。
本作が、《短編》にて優勝できたのは、本当に予想していなかったことで、ある意味で自分の価値観が認められたような、そんな瞬間に巡りあえた。作品数が少なかったことと、真新しさが先行しただけに過ぎないのかもしれないが。
そんなこんなでありがとう、モグたん。

 姉さんが、海魔と、寝た夜のことはっきり憶えてる。あの頃僕は土の中を這っていた。居間に上がってきて早々に、スカートの裾から海草垂れ流して、水滴、畳濡らして、冷蔵庫開けた。がぶ飲みした清涼飲料水が何だったのか憶えてないけど、姉から一口貰って以来、飲んでないから飲みたいと思わなかったんだ。姉は二階の部屋に消え、大声で泣き出した。その声は深夜中、近所界隈を響き渡る、堤防を越えて海魔の棲むあの海岸にまで届いてしまえばいいと心底僕は思った。居間で寛いでた父母は立ち上がって、自殺志願者のような顔を見合し、顎を強張らし手鎌を持って家を飛び出してく父と父を宥める母の姿。誰だって知ってる。
 誰も海魔には敵わない。今更父が奇襲を仕掛けたって農業用の手鎌では切り傷しか残せない。力足りないんだ。玄関先で鎌を手放し蹲る父の背中、悲しみがへばり付いてた。
 雨が降って山が崩れ土砂が町に流れてくると、雨粒に宿った海魔の雛や幼虫、稚魚たちが作物を食い散らかし伝染病となって、赤いぶつぶつ、青いぶつぶつ、皺くちゃのやつ、罹った人たち皆死んじゃった。勘当された姉は自分の血液、薬に見立て、農薬散布の機械でもってローラー作戦仕掛けたけど、子どもたち最初は苦しんでたのに、数が多いから太刀打ちできずに母屋は土砂で流され、高台の櫓に逃げ込んだ父母も首掻き毟りながら鱗に似た蕁麻疹をぼろぼろにして、死んでしまった。櫓の頂上、鐘つきの梁に縄を縛って、姉さんが頸を括ってるのを見つけた頃、誰もが蝕まれてく住居を足許に見下ろしては、手首を切りつけたり農薬呑んだり色んな方法で死んでった後だから、姉さんの死も愕くべきことじゃなかった。
 町の残骸に海魔の篝火が漂い始め、祝宴が始まった頃合を見計らい、人々の亡骸、子どもたちの糞、綯い交ぜの土砂を掻き分け、僕は地中を掘り進むと、海魔のすぐ後ろに這い出、青緑色のふやけた図体に、自慢の爪で穴を開けた。海水臭い体液が出てきて、ずんぐりむっくりな僕の身体、投げ飛ばされ、子どもたちに群がられたけど、土竜殺しの毒薬を練り込んだ海魔の傷口は爛れ、一匹死ぬとまた一匹。
 嘗ての家族たちが苦しむのを見ながら僕は考えた。僕と彼らは大して違わない。畑で見つかって叩き殺されるはずだった僕を、姉さんが拾ってくれた日。彼らと共に海に逃げ出してれば僕が姉さんを寝取ってたんだろうと、海水交じりの血腥い土砂が教えてくれる。
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