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 手のひらの海に、汐はまた満ちる。それまで待とう、死ぬのは。(皆川博子『ひき潮』より) ―――吉川楡井の狂おしき創作ブログ。

-週刊 楡井ズム-

   

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『仮想球をもつ男』

[解題]
ここにも平沢進の影響が見えるだろう。あるいは別口で書こうとしている連作集の前哨にもあたる。砂嵐のなかを独り歩いてくる謎の男、その姿にはどうも惹かれる。
冒頭こそそれらの善きヴァリエイションとして好調な出だしだったが、「和らぎたまえ」の一言で自身の短篇である『夜伽人』に寄せにいってしまった感がある。つまりは一度刻んだ轍にはまり、そのまま進行してしまったのである。だからこそ《仮想球》なるガジェットもずいぶんとこじんまりと収まってしまった。
ほんとうは頭蓋骨の中なんていう閉塞的な場所にあるべきものではないのだ。






近頃のこどもたちは遊び方を知らない。その点、《仮想球をもつ男》はやるべきことをしてくれていると私は思うのだ。あの布のターバンはどこかで見覚えがあるが、曖昧な記憶を頼りに《男》の素性を詮索するのは愚計だろう。
 ここいらでは夕暮れ時になると嵐がやって来て砂に塗れる。《男》は烈風のなかをゆっくりと歩いてきて家々の戸口を叩いて回る。肩に提げた大袋の口からは《仮想球》の糸がなびき、風で遊んでいる。糸は艶やかだが触れれば指先が切れてしまうようで怖ろしい。数軒隣に織物屋の一家があり、主人が云うに、あの細さではああもてんでばらばらになびくはずがない、巷の糸であればすぐに絡まってしまって、《男》が操るような軽やかさは出せないだろう、とそんなところだ。
 織物屋主人と云えば、五歳の息子が先月《仮想球》を継いだそうだ。尚早ではないか、と個人的には思うが裕福な生業の家の子だ。遡れば、私より歳がひとつ下の主人の方も同じ年頃に継承したはずだ。
 かくいう私は数年遅れて……。

「和らぎたまえ。十秒、呼吸を止めているのとさして変わらないから」
 私の頭を撫で、《男》は糸を手繰り寄せると筆を執るように手首を捻る。袋のなかから現れた《仮想球》は海を湛えた深い青で、見るからに冷ややかさを放つ。それが自分の頭のなかに入ってくる、そう思うだけで恐怖だった。《男》は周囲を窺うように宙を踊った《仮想球》を指先で摘まみ、私の眉間に近づけてくる。
「退屈より怖ろしいものはない」
 憶えている言葉はそれが最後だった。にゅまり、と皮膚を蕩けさせた《仮想球》が眉間のなかに入っていくのを感じながら、私は悶絶し、挫傷のような記憶の切れ端を何度も見た。脳が苛められている、今ではそう喩えるだろう。気がつくと寝台で眠っており、父母が心配そうに私を見ていた。《男》は施術後すぐに去ったらしい。無事に継承した私は、稀に見る御馳走を平らげその夜は早く寝た。《仮想球》が根を張るゆめを見た。

 この町には遊具がない。誰も木棒を打ちつけあって遊ばない。どうして。危険だからだ。肉体を操る限り、事故に繋がる原因はなくならない。
 反して私たちは平安に守られている。自ずと溢れ出てくる《仮想球》の精液が与えてくれるものを、どうしてきみは批難できようか。寂れた広場ばかりを見て、どうして脳裡の花園を見ようとしない。
 受け継いで欲しい、きみにも。《仮想球》が視せるゆめを。
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