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 手のひらの海に、汐はまた満ちる。それまで待とう、死ぬのは。(皆川博子『ひき潮』より) ―――吉川楡井の狂おしき創作ブログ。

-週刊 楡井ズム-

   

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『死せる美術のためのサクリファイス』

[解題]
紅《猟奇の章》の〆。
あくまでストレートに猟奇というテーマを追求する。性や犯罪を超越してそこに美意識を感じたとき、それに抗うエネルギーを他者の理性は持ちえるかどうか。
 可能であれば黙秘を続けたい。自分はあの一件には無関係で、共謀すらしていない。あの日、幼馴染に招かれガレージに赴いてすらいない。招かれたが断った。なぜなら彼とはさほど親しくもなかったからだ。昔から何を考えているか分からなかった。親にもあまり付き合うなと念を押されていた。だから自分はあの日、あそこには行っていないし、何も見ていない。何も知らない。
 ガレージには彼を含めて四人の男がいたらしい。その内の一人は自分じゃない。
 女は、友人の一人が連れてきた。薬物に興味があると洩らしていたそうで、半ば同意の上での拉致だったようだ。彼はまず女に薬を渡した。女は初めて体験するドラッグに気分を悪くさせ、ガレージの床に横たわった。三月十二日の明け方のことだという。二人の男が女の衣服を剥ぎだすのを、彼は壁にもたれ掛かって一服しながら見つめていた。女が抵抗空しく素っ裸にさせられると、彼は立ち上がった。まず、頬に平手で三発。床に二度、頭を叩き付けられた。
 かつて一大センセーションを巻き起こしたコンクリート詰め殺人を覚えている。彼もまたその事件を知っていた。あの事件には芸術性がないと語っていた。ガレージの隅に、機材は整っていた。他の男二人に女の体を押さえつけておけと命じて、彼は作業に入った。両足を宙に放ち、股間を露にさせられると、女は漸くそこで悲鳴を上げた。細長い金属パイプが膣に挿入されると、女は身を捩った。業を煮やした男はシャベル一杯分セメントを掬うと、女の口にそれを詰め、忽ち大人しくなった女はその後、ゆっくり自身の胎内に流し込まれていく異物の動きに合わせて、腰を上下させることしか出来なくなった。
 夜が明けて、疲労しきった男たちに囲まれるように女は横たわっていた。はみ出したセメントは生乾きで、一見すれば出来損なった石像のようだ。内側からセメント詰めにされた女は全身をぴくぴく躍らせて、ゆっくり立ち上がった。動くたびに股間が裂け、血と砂の塊が床にぼとんと落ちた。
セメントで固められた女の唇の端が微かに震えた。すかさず背後から彼が羽交い絞めにして張りの失った乳房に爪を立てて揉みしだきながら、女の肩越しに衒いもなく笑った。力が入ったのか、女の下腹部が裂け、血が噴出し、そのまま崩れ落ちた。その時飛んだ血しぶきの、一滴一滴を覚えている。
 それでも自分は何も知らない。動機や芸術性など……これっぽちも……。
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