紅の蜃気楼。鏤められた色彩の美。覗き込めば、時間を忘れてしまいそうになる微細の迷宮を愉しんでいる。穴の奥に広がる、至高の芸術は、欲望と感情と、神秘の追求の上にのみ成り立つもの。たとえ穢れたものだとしてもね。君も、そう思うだろう。
見ているだけで何が楽しいのかって?
馬鹿を言ってはいけない。小さな美術館だよ僕にとっては。これは僕らが作ろうと思って出来上がる代物じゃないんだ。分かるだろう? 自然の摂理、偶然の一致、神の見えざる手……そう呼ぶには大袈裟かもしれない。でもね、気になるじゃないか。どうしてこうなっているのだろうとか。隅々まで目を届かせたい。いやいや、そんな風に意識せずともね、食い入って見てしまうんだよ。
変わってるのかな。物好きだと笑ってくれてもいいけどね。きっと同じ趣味を持っている奴はたくさんいるよ。本当だ。ググってみろよ。フリークがごまんと出てくる。僕だけじゃない。もしかすると君自身も一目覗いたら没頭するかも。そうだ、覗いて見ればいい。さあ、これを持って。
彼に言われるがまま、右手に握った鏡の中を覗き込む。怒涛の色彩が鏡面に映る。確かに不思議な景色。でも、長くは見ていられない。次第に気持ち悪くなってくる。
わたし、もういい。貴方が存分に覗いて。
じゃあ堪能させて貰うよ。それじゃあ、代わりにこっちを。ずっと彼が握っていた円筒状のものを受け取る。暖かい。汗ばんでいた。
この景色は他に喩えようが無い。内側の美。自然が織り成す色への肉薄。虹色でもない、透き通った海原でも蒼穹でもない、サイケという訳でも千変万化とも云い難い、沈んだ単調な色には違いないのに、何故にここまで惹かれるのか。
指を動かして少し転がせば、流れるように、震えるように、景色は変わっていく。オイルで潤った微細の世界。黒い森に守られた紅の泉。蜃気楼。あるいは、愛しき彼女そのもの。グロテスクでありエレガント。麗しき千変万化ならぬ千変万華の世界。
指を伸ばす。震える。溢れる。
右手に握った手鏡の中、暗がりの中に彼の姿が反射していた。なんて無様。わたしに自分の性器を扱かせて、自分はわたしの性器を覗いている。二つ巴、シックスナイン。彼が息を呑んで、闇に生暖かな液が飛んだ。彼が求める至高の芸術なんてそんなもの。ただの視姦。何が万華、万華、万華、万華。今夜もこれで終わり。挿れて欲しいというわたしの望みは叶わない。
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