連なる炎。松明。香しきアロマ。灼かれた獣の丸焼き。フルーツテイストのリキュール。壁に並んだ民族の仮面。魔除けのアクセサリー。虹色の鶏冠を持つ極楽鳥の剥製。椰子の実のドリンク。水晶のカットグラス。ハイビスカス、ヘリコニア……原色の花々。グアバ、マンゴー、ドラゴンフルーツ……熟した果実。周囲に飛び交う異国語。口笛。笑い声。蔦の絡まるステージ。射し込むサンセット・サンビーム。蒸した黄昏。踊り子。サンバ。打楽器のリズム。BGM。
花輪を頭に乗せ、カラフルなドレス姿の彼女はステージの真ん中にいた。情熱的な舞踏。腰で拍を取りながら、客に熱視線を送る。隣では坊主の男が青白い炎を吹き出して、ファイヤーダンスを始めている。
二週間の滞在はいよいよ今日で最終日を迎えた。そこかしこにリリーの面影と思い出が残っているこの島。リリーを弔うための――いいや、自分自身を慰めるためだけの傷心旅行だった。一年前、はじめての海外赴任で訪れた時、ステージにリリーは立っていた。あの日、ステージ上で火だるまになり、僕を含める客の目の前で狂ったように焼け死んだリリー。今は後輩であるダンサー――メイリンが踊っている。
彼女が僕に目配せをする。色気のある軽いウインク。アイブロー、チークとルージュ。細身の肉体に小振りの椀。すらりと伸びた小麦色の足。金絹糸のような長い髪。夕べ、ベッドの上で触れた感触が指先に蘇る。彼女の愛は激しく熱く、まさに本物だった。だが、それが地獄の豪火にならないとは誰にも言えない。
ファイヤーダンサーの火が彼女の身体に塗りたくられたローションに引火する。僕はグラスを投げる。中のアルコールがダンサーたちに降りかかる。ステージは火の海と化し、官能的な音楽が悲鳴でかき消される。お香の隙間から薫り立つ肉の焦げる臭い。スタッフが消火器を持って来ても遅かった。
火に沈むメイリンの目が僕を見る。夕べ、君は僕にすべてを打ち明けてくれたが、それは憎しみの炎を生み出す着火剤に過ぎなかった。君がリリーに対して行なった罪を、僕は再現したまでだ。今、君の身体を灼いているその炎は、憎しみの炎――。
チャーター機に乗り、島を離れ、海原を染める夕日を眺め、しばらく物憂げになった瞬間、ああ僕も地獄へ行くんだと気付いた。僕は火の玉となり真っ逆様に落ちて行く。岩礁にチャーター機は落ちて、狼煙が上がる。
夏が終わり、熱は虚空の中へ。
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