手のひらの海に、汐はまた満ちる。それまで待とう、死ぬのは。(皆川博子『ひき潮』より) ―――吉川楡井の狂おしき創作ブログ。
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この作品を読んで、少し前に純文学の世界で、一大旋風を巻き起こした若合春侑女史を想起したのは、私だけではあるまい。
何とも大仰な感想で、ああなるほどなあと作者自ら気付く部分もある。テーマは《吊るされた男》ということで、角川タロットボックスへのオマージュとしてある。1000文字小説としては比較的初期の作品ながら、方向性は変わっていないようだ。この手の作品は、擬古文という一言でくくられがちではあるが、描き出す時代に合わせて文体表記を換えるという若合女史の技法を逆手に取り、時空のゆがんだ 二つの映像を左右の目に同時に見せることで悪夢の3D映像を読み手の脳内に結ばせる。廃墟に流れた長い時間と、そこに取り残された二つの記憶。我々が見て いるのはきっと、遠い未来ではなく遥かな過去。読み手もまた、いなくなってしまった人々の記憶でしかない。