手のひらの海に、汐はまた満ちる。それまで待とう、死ぬのは。(皆川博子『ひき潮』より) ―――吉川楡井の狂おしき創作ブログ。

-週刊 楡井ズム-

   
カテゴリー「作品:【千文字の饗宴】黒」の記事一覧

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『マタドガスの主人』

[解題]
『マタドガスのあるじ』と読む。
かねてから、ペガサスやユニコーンなどの幻獣と、ポケモンやデジモンなどは、現代において大きな差はないのではないかという考えがある。
今の小中学生にとって、ワイバーンやコカトリスよりもピカチュウやアグモンの方が知名度は上だろうし、何より自分自身、ドラゴン等の幻獣を知ったと き、その傍らにはポケモン・デジモンのモンスターがいた。むしろ、ポケモン・デジモンから逆輸入的に幻獣を知るきっかけになったこともある。
もちろん、それはウルトラ怪獣や東宝怪獣にもいえる。
『レッドキングの結婚』と同じ系譜にあたる、これが現代の怪獣小説である。

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『鴉の末裔』

[解題]
生者と死者の邂逅というものを描きたかった。それもどちらがどちらか曖昧な形で。
登場人物に限れば、ある程度の境界は引かれているものの、読者と語り部としたらどうだろうか。
また、『潮の匂い』にも通じるが、飛鳥部勝則氏の某短編にて論述された、“幽霊とは匂いである。”というファクターを採用している。



『君が猫ろぶ前に』

[解題]
本作の弱点は、身内に早々と指摘されてしまったため、これ以上何を語ればいいのやら。
ああ、そうそう。『ついでにとんちんかん』でおなじみエンドコイチ先生の『END ZONE』という、『トワイライト・ゾーン』やら『世にも奇妙な物語』やら『アウターゾーン』やらまあそんなテイストのコミックスがあって、その中の一篇にインスピレーションを受けている。
『代わりに、小鳩を』と同じ。これ関連はあまり巧くいかない。
本当は『夜に猫ろぶ民』というタイトルで、萩原朔太郎の『猫町』にオマージュを捧げた幻想掌編になるはずが、まあ、分かりやすさを取ったということで、堪忍。




『バリヨン』

[解題]
幼少時代は水木しげる作品と共にあったといってもいい。昨今の妖怪ブームに乗り切れていない身ながら、なぜに当時ああまで心惹かれたのか。それは『ゲゲゲの鬼太郎』や『悪魔くん』がTV放映されていて、身近にあったというのも一因だろう。しかし今思うに、嘗て愛したようには愛せないような気さえする。
当時は単なるキャラクターとしてしか見ていなかったように思うのだ。今では本作のようにひとつのキャラクターを掘り下げ、弄び、その背景に悪意を描くことしかできなくなっている。
或る意味、本作は鎮魂歌なのかもしれない。夢想に棲む妖かしと、それを愛してやまなかった幼心への。

なお、本作のテーマは電話。テーマがガジェットと成り下がり、その上、端から1000文字オーバーしているといういわくつきの作品でもある。


『検閲』

[解題]
テーマは、物語の魔の物語。つまりはメタ怪談もの。
といっても本作の場合、通常のメタフィクションとは異なる。一度、メタ構造の外側に出た後、そこもまた内側であると気付く。とどのつまり、行って帰ってメタフィクションではなくなるとも見える。なので、メタフィクションではなく単なるモンスター物としても読めるように出来ている。






『魔囚壹景』

[解題]
bk1怪談大賞に投稿したものはこれを800字にブラッシュアップしたものである。どちらがいいかはどちらでもいい。ここで、bk1で貰った感想を引用することにする。
この作品を読んで、少し前に純文学の世界で、一大旋風を巻き起こした若合春侑女史を想起したのは、私だけではあるまい。
この手の作品は、擬古文という一言でくくられがちではあるが、描き出す時代に合わせて文体表記を換えるという若合女史の技法を逆手に取り、時空のゆがんだ 二つの映像を左右の目に同時に見せることで悪夢の3D映像を読み手の脳内に結ばせる。廃墟に流れた長い時間と、そこに取り残された二つの記憶。我々が見て いるのはきっと、遠い未来ではなく遥かな過去。読み手もまた、いなくなってしまった人々の記憶でしかない。
何とも大仰な感想で、ああなるほどなあと作者自ら気付く部分もある。テーマは《吊るされた男》ということで、角川タロットボックスへのオマージュとしてある。1000文字小説としては比較的初期の作品ながら、方向性は変わっていないようだ。




『火車の顔』

[解題]
怪談を書こうとして、途中でこのままオチがない作品を書こうとした結果のような気がする。
というか一番怖ろしいのはこれをいつどんなタイミングで書いたのかが全く思い出せないこと。いや書いたこと自体は覚えてるのだが、それがいつ例えば他の1000文字小説のどれの次に書いたとか、何ヶ月前とかを全く覚えていない。
そういうわけで特に思い入れはない。こういうパターンも実に珍しい。





『Ten’ Va Pas』

[解題]
作中でも言及されている同名曲を聞くと、底知れぬ不安と悲哀、恐怖にも似た寒気を感じる。引用した部分はググれば、翻訳が出てくる。作中人物の状況に併せて、ここではあえて翻訳を載せないが、機会があれば探して欲しい。
作品そのものとしては曲のイメージを壊さないようにモダンホラーのスタンダードとした。冒頭からオチに至るまで、既視感の漂うぐらいがちょうどいい。『Ten' Va Pas』の哀しいメロディー・歌声が浮かび上がるように。あまり1000文字としては書かないタイプ。却って新鮮味がある。怪奇の章の折り返し地点に位置するだけに、ある種重要な作品。




『蠅とサイダー』

[解題]
本当なら蠅の王様をどどーんと登場させたいところだったが、その片鱗を変哲のない一匹の蠅に視るという趣向を選んだ。ただし少々勝手が違うのは、作品自体がベルゼブブ誕生の叙事詩になっていること、とでも言おうか。
地獄への言及は少し蛇足な感じが否めない。物語を期待せず想像力の海に浸かっていただければ蠅の歌も聞こえてくるかと思う。





『シメールの罠』

[解題]
駄洒落シリーズ。 これは実に驚かれるのだが、小生CGアートもまた大の好物である。ただラッセンやシメールよりかは、『銀河鉄道の夜』や星座の世界など小生の血液を作品にしているKAGAYAや、RPGの世界観を一枚の額に切り取る内尾和正、フォトグラフィックを融け合わせ架空世界を描くシャイアン・コイなどがお気に入り。 そんな中、シメールと幻獣キマイラの日本語観点からの奇妙な共通点がときめいて心を離れなかった。シメールとキマイラはもちろん語源も違えば、スペルも異なる。その点、日本人だから描ける錯覚の妙であろう。 それを自覚した上で、あからさまな小坊主一休へのリスペクト。 そんな遊び心から生まれ、遊び心で肉付けされた小生独自の作品である。





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