手のひらの海に、汐はまた満ちる。それまで待とう、死ぬのは。(皆川博子『ひき潮』より) ―――吉川楡井の狂おしき創作ブログ。

-週刊 楡井ズム-

   

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『検閲』

[解題]
テーマは、物語の魔の物語。つまりはメタ怪談もの。
といっても本作の場合、通常のメタフィクションとは異なる。一度、メタ構造の外側に出た後、そこもまた内側であると気付く。とどのつまり、行って帰ってメタフィクションではなくなるとも見える。なので、メタフィクションではなく単なるモンスター物としても読めるように出来ている。




 これから私がお話することはすべて実話である。したがって、本日はじめてお目にかかれる読者の方々には、この物語を是非内密にし、金輪際、記憶の檻から出さぬようにご注意願いたい。

 あれは取材で、とある作家の書斎に宿泊するという企画の最中だった。三日間と予定していた内の二日目だったと思う。その作家といえば『暗黒の■』という題の怪奇小説で有名だが、一方で、その謎めいた本人の最期が語り継がれている。昭和二十三年■月■日。彼は書斎で執筆中に突然■■し、妻子の制止を振り切り、書斎に飾られていた家宝の■■■で妻子の■を■ね、そのまま■■の喉元を■■■と■って自害した。
 彼は直前に書いていた日記の中で、こう記している。

 “部屋の隅から、■の引出しから、本棚の■から、■熱■の傘の陰から、カアテンの■■から、じろりと見つめる■がある。アゝ■■■いになりそうだ。■■■■■■■■■。妻も息子も信じてくれない。このまゝ見つめられながら、生きていくことなど■■■ぎる。せめて顔を出して欲しいと願つてみれば、アゝなんと莫迦で、真抜けで、■■■■じみた願いだつたことか。小生の願いを聞き入れて、■は、ゆつくりとやつてくる。気付かぬ内に潜んでいるのだ。アゝもうやつて来ている。暗黒が……”

 怪奇現象を検証するために、書斎に泊まったものの、一向に何かが現われるような気配はなかった。だが携帯電話は圏外になり、皆、時折ノイズを聞くようになった。耳を■■■くようなノイズ……ほら、今も聞こえた。すでに一人、ノイズの■にやられて、寝込んでいるものもいる。
 二日目の夜。■■は私たちの目の前にやって来た。私たちを包む、■■の群れ。そこで気が付いた。これが■だ。作家の日記に遺された■の正体だ。縦横無尽に積み重なる■■。■■、■■■、■■。記者の一人は■に潰され、■■と■■に挟まれた。そんな馬鹿なことがあるのか。■■■■■、■■■■■■……。
 ■■■■■、■、■、■、■、■。
 ……■■■……■■。
 アア、ノイズが溢れていく。■■ばかりだ。見えるだろう、貴方にも■■の姿が。ほら、ここにも!
 消えない。ノイズとともに暗黒の淵から舞い降りた、死を宿す■が。

 記述し終わった私は新たに介入してくる●を見た。●は何処から現れ、私たちをみるみる潰していく。
 新たな秩序か、崩壊か、その正体を誰か教えてくれないか。


注:)この物語は●ィクションです。
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