トウサン、ボクデス、アナタノムスコデス。イマ、ドコニイルノデスカ。ヘンジヲシテクダサイ。トウサン……。
……父さん。僕です。
……貴方が攫われてから、巷では『γ(ガンマ)』の話題で持ち切りです。今日も数人『γ』に殺されました。
……眼を奪う悪魔。殺人鬼。誘拐犯。狂人。妖怪。『γ』の正体も動機も掴めません。何者なのか。何故、眼を奪うのか。
……携帯が鳴ってる。アンテナが四本……近くに気配を感じる。何かが来る……。
……着信。0000000……無数の目が並んでこちらを見ているようです……。
“もしもし” ……もし……聞き慣れない声。誰だ。
“もしもし?” ……お前は誰だ!
“やっと見つけたよ、『γ』”
……何を言ってるんだ。コイツハ。自分が『γ』ジャナイノカ。
“なんてね。君は『γ』じゃない。『γ』は君の心が生んだ、もう一人の君だ”
……ウルサイ。『γ』は敵。父さんをサラッタ。……敵。
“『眼魔』を真似た、連続襲撃事件の犯人は君だね。何故こんなことを”
……父さんをサラッタ。『γ』……敵。
“まさか。『眼魔』は人の眼以外奪わないのに。奴は僕の敵だ。君には倒せない。……妖怪である君にはね”
……アンテナが四本。危険が近付いてくる。
“人間の使う、もしもし、という言葉。あれは人と妖怪とを区別するために考え出されたものだ。妖怪は、もしもしのように同じ言葉を繰り返すことが出来ないからね”
……危険、危険。
“僕が探しているのは『眼魔』、妖怪だ……君は早”
……少年の言葉を断つ、割り込み着信……。
……ガンマ。イマ、アナタノウシロニイル。アナタハボクノトウサン?
……『眼魔』……『γ』……?
“本物だ。君は奴の分身を自分の中に作り出していただけなんだ。新たな人格として。
……振り返ると『眼魔』がいた。子どものような大きさで、緑の肌、全身に眼が浮かんだ肉の塊。体の多数の眼の中に……父さんがいた。
「やめろ、君には敵わない」
……何処からともなく現れた少年の叫び声。
アナタガボクノトウサン?
……耳障りな『眼魔』の声。僕が奴の身体に飛びかかる間際、『眼魔』の甲高い悲鳴のその隙間に、少年の呪文が響いた。
――エロイムエッサイム。
……それからのことはよく覚えていない。気付けば闇の中にいて、アンテナは一本も立っていなかった。少年も『眼魔』も何処かへ消えた。だけれど、受話口の向こう、父さんの呼ぶ声だけが僕を導いて、街角にカランコロンと下駄が鳴る――。
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