ある晴れた昼下がりの午後。
保育園の窓から中を覗き込みながら、二人の男が話している。
「近頃は大人びている子どもが多いらしい」
「ええ、知ってます。大人を大人だと思ってない子だとか、……自分を大人だと思っている子だとか。まあ、この光景を見れば少しは報われるじゃないですか。少しは」
「ああ、せめてもの警鐘にでもなればと思うよ。大人が大人らしく生きる世の中、子どもが子どもらしく生きる生き方とは何か、図るためのね」
「でも、どこから集めて来たんです? こんな人数、こんな……“園児たち”」
「なに、みんな私の友だちだよ」
昼寝が終わり、午後のおゆうぎが始まる時間。
青のエプロン、ぞうのアップリケ、今ではさほど珍しくのない男性保育士を取り囲む、二十数人の園児たち。皆、爛々とした目で、教室の中を駆け回り、保育士の呼び掛けに元気に応える。和気藹々としたその光景は、どこかちぐはぐな印象がある。しかし、園児たちの笑顔を見れば、それもどうでも良いことだと諭される。
「でも、ここまでする必要があったんですかね?」
「さっきも言っただろう。小児性とやらは、子どもにあって当然の時代ではなくなったんだ。小児性とは可能性だ……私はその小児性を別な角度から掘り起こそうとしたんだよ」
「いったいどうやって?」
「なあに、単なる催眠術さ」
はしゃぎ回る少年少女。特注の子供服を着こなして、すっかり保育園に溶け込んでいる。だがしかし、彼も彼女もその姿は、油ののった中年の男女だった。
大きな身体で本当の子どもたちのように、保育士に纏わりついたりかけっこしたり、忙しない。だがその顔はとても愛くるしく楽しそうだ。そう、まるで本当に、子どもの頃に戻ったかのように。
「小児性は我々大人の中にもある。それを引き出しただけだ。老獪な子どもには逆に効くがね。いずれにしろ、とっておきの術さ。中でも、視覚への催眠が要だよ。彼らは互いの姿を見ても、大人であると認識しない。ところで……実はこの中に本当の子どもも混ざってるんだが、君には分かるまい」
「本当の子ども?」
保育士が大きな声で、召集をかける。
「さあ、みんな~。集まれ~。おゆうぎのじかんだよ~」
大の大人たちが目を輝かせて、飛び跳ねる。
「まあいい。私たちも行こうじゃないか。催眠を解いて早く行こう」
硝子戸ごしに、外から中を覗き込んでいた少年二人は、仲良く手を繋いで友だちの輪に入っていく――。
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