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 手のひらの海に、汐はまた満ちる。それまで待とう、死ぬのは。(皆川博子『ひき潮』より) ―――吉川楡井の狂おしき創作ブログ。

-週刊 楡井ズム-

   

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『ATOMOS』

[解題]
宇宙ものを書くと、『空飛ぶマタドール』(宇宙ものというか宇宙人もの)だったり、『銀河の夏、ニッポンの夏』だったり、いまいち地上から離れないものが多い。
王道の宇宙ものということで、もちろん某SF、否、某特撮をモチーフとしている。
それが何か。ひとつはすぐに思いつくだろう。放射能といえば、あれである。それではもうひとつなにか。
放射能といえばのあれ、によく似た、あれ。
某特撮の記念すべき最初の一歩である。まあ、気にする必要性は皆無だけど。



 小惑星《アトモスフィア》は穏やかで静かだった。むき出しになった岩盤は湿気ていて、うにょうにょと一部が蠢動している。不時着して見つけたこの星は思いの外、故郷と気候が似ていた。尤も一番驚異的なのは、酸素を含んだ大気が存在しているということ。
 “大気(アトモスフィア)”という名称は、岩盤の上に設置されたアンテナに書かれていたものによる。『ATOMOS』。我々の母星語と同じ言語にも驚いた。
 私は宇宙服を脱ぎ捨て、一先ず雨を浴びる。先程南数十kmの地点に植物群が発生しているのを見た。旧時代のものではなく、新たに生まれたものと考えられる。
 雨は恵みの雨。少しばかり酸性の度合いが強そうだが、大きな差はない。ここまでの環境が整っていて、文明が生まれていないことが不思議だ。嘗ては存在していたのかもしれないが痕跡はない。
 私は手動のバギーで地を駆る。密林には、生物こそいないが果実が実っていた。とても美味。野菜の栽培も可能だろう。シャトルのコンテナに真空保存の種があったはずだ。もしかしたら住めるかもしれない。肉類は味わえないが、ある程度の栄養は摂れる。
 燃料となり得るガスの手配はどうにもならなかった。不時着したシャトルでは脱出できないことを意味している。無線も途絶えた。電波は遮断されているらしい。
 私は広い高台に上り、灼け付くマーズの夕日を眺めた。太陽は遠い。
 蠢動する大地。地面から湧き出る酸素。

 だが孤独で穏やかな暮らしは、三か月しか保たなかった。私の身体が気候を受け入れていないらしい。吐血が止まらない。シャトルの窓からアンテナが見えた。電波障害ではない。薄らぐ脳裏で昔話を思い出す。
 嘗てこの宇宙には“地球”という星が存在した。魔の元素に滅ぶまでは。我が母星の文明はその“地球”の文明から派生したものらしいが真偽は定かではない。
 とんでもない罠にかかってしまった。『ATOMOS』。窓から見えるアンテナにはそう書かれている。あれはアンテナの名称だろうか、それともこの星の名称だろうか。“地球”が滅んだ原因とは如何なるものだったか。
 大地が蠢動している。
 私は終わりだ。次に不時着する飛行士のためにこれだけは記しておく。
 大地の下では酸素の発生に伴って、放射性元素が崩壊している。
 ――『ATOM-OS』。“ATOM(原子)”が作り出した、核の権化。生きる兵器。
 君が見ているその空は放射能の巣窟だ。
 一刻も早く、――逃げたまえ。
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