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 手のひらの海に、汐はまた満ちる。それまで待とう、死ぬのは。(皆川博子『ひき潮』より) ―――吉川楡井の狂おしき創作ブログ。

-週刊 楡井ズム-

   

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『蒸気機関星人の夜』

[解題]








台風のように渦巻いた太陽系が半分でねじれて、メビウスの輪のようになったというニュースは世界を震え上がらせたようだけど、僕の身近で大きく変わったことといえば彼が現れたことぐらいだろう。彼は不思議なヤツだ。蒸気機関車の顔をして、「蒸気機関星人と人は呼びます、私のことを」だってさ。蒸気機関と蒸気機関車じゃ意味が違うのに。
 彼が右手を何かにかざすと、ひたいの標示板には数字とCpなる文字が現れた。カムパネルラと彼は読んだ。
「単位ですよ。喪失性物質が喪失を引き起こす能力の」
 彼がかざしたのは飼っていた青猫だ。数値は三〇。もっと難しい計算式を応用すれば時間として算出できるというが、あくまで理論値で実際は環境によって変化する。しばらくするとほんとうに青猫はいなくなってしまった。
 それだけじゃない。右手で何かをかざしながら、左手で別のものを指さすと今度はJvなる文字が標示される。右手のものの喪失が左手のものに及ぼす影響度合いだという。青猫は三。川に落ちて壊れたプラモデルは五だった。僕は抗議した。いくらなんでも玩具の方が猫より大事だなんて。
 父を喪失したのも間もなくのことだ。父の数値はわからない。何度か計測を誘われたが断った。「確かに知りすぎはよくない」と彼は感心した。けれどお医者さんに半年しか生きられないと言われたお母さんだけは測ってもらった。二〇〇。人と猫は比べられないが、一〇年は間違いなく消えませんねと彼は言った。
 それを機に、彼は一言もしゃべらなくなってしまった。

 通夜が終わって、そそくさと川べりに出ていく彼を追った。「知ってたんだろ。父さんが死ぬこと」僕は言ってやった。彼が計測を誘ってきたのは後にも先にも父だけだった。数値を測るしか能力をもたない彼でも立派な死神だ。
 肩を上下させる彼はへたくそにも泣いているようで、しゃべらないんじゃなく、しゃべれなくなってしまったんだとやっと気付いた。彼は自分と僕に両手をかざした。そして彼はいなくなった。

 いつしか、ねじれた銀河が元に戻りつつあるという。ニュースはひっきりなしに∞の形の太陽系を映し出していた。見覚えがある。あの夜、右手で自分を左手で僕を指した彼の標示板。そこに映し出されていたのも同じ形だ。
 数値にすれば何かが変わるってわけじゃないんだ。
 けれど見えないものが見えるようになることで救われる心もあるってことを、彼は教えてくれた。


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