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 手のひらの海に、汐はまた満ちる。それまで待とう、死ぬのは。(皆川博子『ひき潮』より) ―――吉川楡井の狂おしき創作ブログ。

-週刊 楡井ズム-

   

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『夜想の水晶』

[解題]






おおきな国の小さな城に住むお姫様は真夜中に部屋を抜け出して、
 母上のベッドに潜り込むの。押入れのなかからおそろしい声が聞こえてくるから。
 さけび声のような、うなり声のような、猛獣の声。
 んぐー、んぐーんんー、んぐー、んぐんぐんぐぐぐぐー。

 おそろしい声は、悪い夢のせいだと母上はいいました。
「じゃあ夢はなぜ見るの」とお姫様は聞き返します。
「さぁ、分からないわ。でも、いいものを教えてあげる」
 んぐー、んぐーんんー、……。おそろしい声はまだ聞こえていました。

「もうずいぶん昔のこと。わたしがあなたぐらいの年頃にもらったもの」
 うつくしく、どこかさびしげな水晶を眺めながら母上は言います。
 悪魔のうぶごえを封印した、夜想の水晶、と母上は呼びました。
「いつもにぎりながら眠るの。すると辺りはたちまちまぶしくなって、……
 こすると泡のワタリガラス、銀貨の飛び魚、箒に跨った三角帽の魔女、……
 とおくから古い子守歌をかなでて進んでくる楽団たち、……
 しらない歌、でもどこか懐かしい。らんら、らーるらら、るーららるる、……
 なかないで、なみだは悪魔のえさになる、って妖精さんが教えてくれた……
 いまのわたしにはもう必要ないもの。だからあなたが使いなさい」
 かかえこむようにしてお姫様は水晶をうけとりました。
 らんら、らーるらら、……。聴こえてくる音色に、耳を澄ませました。

 ぶどうの樹に、ふくろうの形のふさがぶら下がっていたり……。
 たなびく煙が、ブランコや回転木馬をえがいたり……。
 なにもかも、水晶が吐きだすイメージはおとぎ話のような光景ばかりでした。
 いつまでも、朝が来ても目覚めても、夢を見ている気分でした。
 でも、お姫様は水晶を手ばなすことができませんでした。

 お姫様は大人になるにつれ、毎晩お願いをするようになりました。
 願いは水晶のなかで共鳴して、かがやくのです。
(いつか子どもができたら、悪い夢を見ずにすみますように)

 いつまでも、朝が来ても目覚めても……。
 いまはまだ、お姫様の手のなか。
 子どもができたら、ようやく手ばなすことができるのでしょう。
 にぎった手のなかで、夢を吐きだす夜想の水晶。
 すきとおった水晶から光がはなたれ、押入れのなかを照らしました。
 るーららるる、……
 かわいらしい、見知らぬおんなの子がなきながら口ずさんでいます。
 らーるらら……、押入れのなかは知らない国でした。

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