赤い糸って信じますか――。
目の前の女は、口淫も早々に切り上げて、ベッドで仰向けになりながら、そんな言葉を虚空に吐いた。焦らしの方法にしては意地が悪い。構わず、続きを始めようと胸元に顔を埋めると、体を横に倒し、こちらに背を向けてしまった。今時の高校生は大人を馬鹿にしている。いや、手玉に取る方法を熟知しているのかもしれない。曲がりなりにも、自分の勤めるバイト先の店長に春を鬻ぐぐらいの女だ。私のような被害者は過去にごまんといたのだろう。と言っても、私の場合、代金は給料の前貸しであるだけまだマシか。無論、貸したまま、せしめ取られる虞がないともいえない。だが、四万か五万の金ぐらい、この不憫な女に貢いでやってもいい。充分満足させてくれるのならば。
女の隣に寝そべって、ホテルの天井を見上げていると、視界の隅になにやら赤い糸くずが宙を漂っているような気がした。目をしばたくと、それはどこかへ消えてしまう。
運命なんてものは信じない。そう答えると、女は寝たまま左手の小指を突き出してきた。細くて白い指だ。爪には赤いマニキュアに奇妙な模様。黒い塊のようだ。視界がぼやけてきた。
女は起き上がると、私の掌を掴み、自分の体に押し付けてくる。私の掌は若い女の張った胸の上を滑り、臍を撫でると、湿った茂みに吸い込まれた。女に操られるがままに、私の手はその股間に宛がわれ、指が狭い穴の中に入っていった。僅かに動かすと、連動して女の肩と声が上がる。潤いを堪能した中指を引き抜くと、その先に紅に光る一筋の糸が伸びた。生理中とは気がつかなかった。下着にナプキンなどついていただろうか。脱がせたわけではないから分からない。奇妙なことに、その糸はすごく伸びた。まるで断ち切れそうにない。体を反ってみても、糸は指と女の性器とを繋げたまま、照明の光で煌いている。
その瞬間、私は女に押し倒された。糸が宙を舞う。女が吸茎し始める。先ほどのものとは桁違いの快感が背骨を走る。ぼやけた目が女の臀部に注がれた。赤い。赤い糸が空中に放出されている。なんだ、あれは……。女が顔を上げた。切なそうな数個の瞳がこちらを見上げている。のた打ち回る女の舌に、私は堪えきれなくなった。腰が震え、気が遠くなる。だが、太腿に食い込んだ女の小指に、私は明瞭と黒い模様を確認した。
鋭い牙を持つ、織女――醜き女郎蜘蛛の姿だ。
そして、女の牙が、突き立てられる。
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