忍者ブログ

 手のひらの海に、汐はまた満ちる。それまで待とう、死ぬのは。(皆川博子『ひき潮』より) ―――吉川楡井の狂おしき創作ブログ。

-週刊 楡井ズム-

   

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。



『神話』

[解題]
【神曲】という言葉がダンテのそれではなく【名曲】という言葉をも凌駕する楽曲を表すのであれば、爆風スランプ『神話』はそれだろう。映画ガメラの主題歌である。小学校時代、今はなき東宝系の小映画館で観た時の稲妻を思い出しながら書いた。
本当は思い出が神話へと至る過程を幻想で補って作品にしたかったが、比重の問題でこうなった。別の機会にその方法論は取り入れるとしよう。


「くらえ、プラズマ火球っ」
「そんなんじゃ届かないぜ。放射熱線」
 ゴジラの口から吐き出される白い斜光が、見えた。ぼくのガメラが放った火球はゴジラの足元をかすめたのに、ガメラは放射熱線をまともに食らってしまう。
「ぐあっ、やられた。まだまだ、ブレイクファングっ」
 ガメラがゴジラの右肩に噛み付く。
「効かないね。体内放射」
 ゴジラの黒い体がオレンジ色に耀く。本当はそんなことあるはずないのに、確かにそう見える。ガメラは弾き飛ばされて宙返りをした。そのまま回転ジェットで空を飛び、ゴジラの鳩尾に体当たりする。けれどゴジラはよろめきもせずに、ガメラの巨体を受け止めると地面に押し倒した。
「亀はひっくり返ると弱いんだ。とどめだ、バーンスパイラル」
 紅が渦を巻いた強力な熱線が、ガメラの腹に注がれる。またぼくの負けだ。ソフビ人形を引き離すと、ぼくらはブランコに腰かけた。
「いっつもゴジラが勝つなんてひきょうだ」
「ゴジラの方が強いに決まってるじゃないか」
「誰が決めたんだよそんなこと」
「恐竜と亀だぜ」
「トカゲだろ。たまには勝たせてくれよ」
 稜線にそって立つ電波塔の列を食むように、夕陽が落ちていく。手の中のガメラの、甲羅のギザギザを指でなぞりながら、ぼくは奥歯を噛みしめた。もっと怒りたいけど、怒るのがなんか恥ずかしかった。
「じゃあさ、交換しようぜ。ゴジラとガメラ」
 彼はゴジラを差し出す代わりにぼくの手からガメラを奪った。
「決闘は来週にしようぜ。それまで修行だ」
 なんか腑におちない。けど、それも面白いかなと思った。ぼくはゴジラとガメラどっちも好きだ。どっちもかっこいい。でも、怪獣王はゴジラだけだって言ってやまない彼は、それでいいのだろうか。家に帰ると、デスクスタンドの下でゴジラを動かした。これでもしぼくが勝ったら、ガメラよりゴジラの方が強いことの証明になってしまう。
「なんで交換しようなんて言ったんだろう」
 腕を振り回すゴジラの鋭い眼光に、ぼくは問いかけた。

 決闘は実現しなかった。負けてくれようとしたのか別の意図があったのか、目的は分からずじまいのまま時が経った。
 いい加減、捨てたらどう。妻はよく言う。時代後れの玩具だから息子も喜ばない。けれど捨てられないよ。このゴジラは、彼だ。戦友だ。
 決闘の行方は彼しか知らない。
 受け継がれることのない神話に、ぼくは立ち向かっていかなければならないんだ。
 何度でも。
PR


TRACKBACK

Trackback URL:

更新情報

25.5.5 新装開店大セール中

プロフィール

HN:r0bot21th
年齢:36
性別:男性
職業:虚無員



nirekunの最近観たビデオ

ブログ内検索

ポチッとな

【Gendama】楽しくお得にポイントが貯まる! 貯めたポイントは【現金やwebマネー】に交換できてお得♪ ▼登録は無料だから、まずは登録してみよう!▼ ↑↑ここから登録するだけで250ptが貯まる!!

カウンター

Copyright ©  -- -週刊 楡井ズム- --  All Rights Reserved
Design by CriCri / Photo by Geralt / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]