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 手のひらの海に、汐はまた満ちる。それまで待とう、死ぬのは。(皆川博子『ひき潮』より) ―――吉川楡井の狂おしき創作ブログ。

-週刊 楡井ズム-

   

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『甲殻類と霊長類、』

[解題]
皆川博子『影を買う店』の解釈:評説を書くにあたり手に取った清水邦夫の戯曲集を読んで、戯曲の面白さに目覚めたわけではない。ありとあらゆる表現方法を取り入れる一環であった。ただし、先の戯曲集がつまらなかったというわけではない。楽しく読んだ。いずれ、さらに突き詰めて取り組みたいと思ってはいる。
戯曲集といえば、ラーメンズのコント『無類人間』『甲殻類のワルツ』がある。内容は関係ないが頭の片隅にあったことだけは確かだ。いずれも小林賢太郎戯曲集に収録されている。


霊長類(役者A)
甲殻類(役者B)

――朝。茫漠とした草原のただなかに舗装道路が直線に伸びている。一人の青年がずんずんと歩んでいる。どれほど歩いてきたかはわからない。さらに一歩踏みだそうとしたとき、足もとに奇ッ怪な生物が座りこんでいることに気づく。

霊長類 なんだ、貴様は、生き物か
甲殻類 貴殿がそうだと思うならいきものだろう
      だが、そうではないと思ったところで、いきものでなくなるわけではない
霊長類 うるさい奴だ、ご託は承知したからそこをどけ、俺は先に進まにゃならんのだ
甲殻類 ご免こうむる、わたしはここにいたいのだ
霊長類 一歩たりとも動かんか、とんだ畜生め、踏みつぶされても文句はあるまい
甲殻類 つぶせるのか、かかとはそれを望んでいるのか
霊長類 かかとは物言わぬ、思考もせぬ、すべてはここのお達ししだいよ

――こめかみを指で叩くしぐさ。右足を振りあげる青年。

霊長類 あげてしまった、命乞いはきかんぞ
甲殻類 乞うても届かないことは知っている、貴殿が言葉しか聞こうとしないことも
霊長類 知った口を
甲殻類 わたしたちは言葉なんて面倒な術はつかわない
      各々がそこに在ることを確認しあう、それで充分だ
霊長類 確かに虫けらには充分すぎる、だが、貴様
      今時分いけしゃあしゃあと饒舌っているのは、なんの夢だ、間違いだ
甲殻類 饒舌ってなどいない、饒舌っているのは貴殿だ
霊長類 ばかを云え、こうして会話に成っているではないか
甲殻類 貴殿の言葉を吹き替えているにすぎないのだろう、貴殿じしんが
霊長類 お、おい
甲殻類 あるいは戯曲を書いた者の言葉か
役者A おい、本にない科白はやめろ
甲殻類 あるいは、演じている者の言葉かもしれない、わたしに判断はできまい
      しかしそれでも踏みつぶすのか、貴殿のかかとで、わたしの休息を無碍にするのか

――青年、ぐらついた拍子に思わずかかとを地に着ける。沈黙。足をのけると、汗ばんだかかとの皺のあとが残っている。

役者A おい、どこに行った、なんだ今のは、科白をとちったのか、おい、
      返事をしてくれ、おい、おい……

――ヒトサルめいた被りものを捨てる青年。ひとり茫漠のなかに立ちすくみ、暗記している脚本の最後の科白を口にする。奇妙なことに、それは彼の心中に渦巻く疑念そのものでもあった。

      いったいぜんたい、俺はなにを踏んでしまったのだろうか……
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