小さい頃はお気に入りの指人形たちが夜毎動き出したら……なんて妄想もしたけれど。
時間の経過が思い出を他人事にさせてしまう。今も家のどこかに昔のおもちゃはしまわれているに違いないのに、一つ屋根の下にいるという心地がしない。おまけに高校に進学したら勉強勉強で探すひまだってないし、わずかな趣味の時間はネットかショッピングで潰れてしまう。四歳から続けてるピアノだって、ここ最近は全然触ってない。昔から才能はないって気付いていたから、別にいいけど。
八時二分の電車に乗らなきゃ遅刻だってのに、どっかのオヤジが改札でもたもたしているせいで、乗り遅れた。もともとの原因は、寝てる間に行方不明になったケータイを探してたせいだけど。むしろ、パソコンラックの陰に隠れていたケータイが悪い。
新宿駅前をうろついていたら、スクランブル交差点の真ん中に白ウサギがいるのを見つけた。たぶんまた何時か聞いてくる。ウザいので、スタバに逃げ込んだ。カウンターに鞄を下ろすと、ミサコからメールがきた。明日数学の臨時テストがあるらしい。溜め息をついて、コーヒータイム。てか外が騒がしい。選挙の荷馬車が大通りでたらたら演説を繰り返している。灰色の鬣だから、あれは共産党だ。それぐらいニュースを見ていなくても知ってる。
カフェオレを飲んだらすっきりして、109に行こうと思った。でもその前にATM寄らなきゃ。さっき最後の千円を使ってしまった。小銭では化粧品すら買えないもの。お金を下ろして通りを歩いていると、いつもはこの角曲がれば近道なのに違っていた。ここら辺はしょっちゅう道筋が変わる。さまよってる内、東京タワーの麓に出てしまい、そこで街路樹に道を尋ねた。
南に鶏、七歩分。東に子ネズミ、十歩分。くるりと回って、妖精のチーズ二つ分。
言われたとおりにしたら、なんと、余計道に迷った。教え方悪いっつうのなんて毒づき、仕方なくGPSで位置を探る。地下道を見つけたので、早速潜ると草原に出た。見覚えのある少女が丘の向こうから走ってきてジャンプする。草は少女の体を受け止めるには充分すぎる柔らかさで、まふんと少女の体は跳ねもせず、草原のベッドに埋もれていく。
そうか、ここは思い出が混在する《百年庭園》なのか。
起き上がって駆けていく少女の後姿を見送りながら、伸びをする。
「あの頃がうらやましいよ。……ま、仕方ないか。よし、帰って勉強しよっと」
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