手のひらの海に、汐はまた満ちる。それまで待とう、死ぬのは。(皆川博子『ひき潮』より) ―――吉川楡井の狂おしき創作ブログ。

-週刊 楡井ズム-

   
カテゴリー「作品:【千文字の饗宴】翠」の記事一覧

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『代わりに、小鳩を』

[解題]
蓋を開ければ、ファンタジーでもなんでもないという妙。
4ヶ月ほど《短編》の投稿をやめた時期があり、その復帰作だったわけだけど、本作の悪魔主義が徐々にエログロへと変遷を辿っていったというわけで、それもまた記念。
本作の取り扱いとして適しているのは、クリスマス時期、調子に乗ったガキンチョに読み聞かせて、きょとんとしているのを見ながら、豪勢なチキンを頬張ってみること。それぐらいしなければ、悲哀は分からない。


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『海魔の死んだ日』

[解題]
これを進化と結びつけるのは、幻想に頼りすぎなのかもしれない。“雛や幼虫、稚魚”という部分だけでも、海魔の特異性、進化の驚異を感じていただければ幸い。
本当は田鼠と書きたかったのだけど、読みやすい、一般的な土竜となっていることだけ不満。
本作が、《短編》にて優勝できたのは、本当に予想していなかったことで、ある意味で自分の価値観が認められたような、そんな瞬間に巡りあえた。作品数が少なかったことと、真新しさが先行しただけに過ぎないのかもしれないが。
そんなこんなでありがとう、モグたん。



『仮面の城』

[解題]
仮面テーマでは短篇作品として『笑み』というものがある。こちらは奇病の存在も雑じらせて、人が仮面を脱ぐときとは、素顔を曝け出すとは、というようなことを物語化したものだが、本作は仮面を被ったままの状態における不条理性を根幹としている。
地味ながら気に入っているのは、世界観でもあろうし、純粋無垢な物語運びでもあろう。
1000文字を、否、小説を書き溜めるにつれ、鍍金が剥がれる懼れと、それを隠すためにつける仮面の分厚さに気がつく。昔の作品に目を通すと、特に烈しく感じる。






『不屍祝祭日』

[解題]
bk1怪談大賞に投稿した際に800字に減じているが、これがオリジナル。
本作を少なからず"怪談"を募る企画に寄稿するというのも馬鹿げた話だが、オチは一応怪談の手法を取っているといいわけしよう。
その際、頂いた感想に、"死を忌み嫌う現代への皮肉"という指摘があった。
本作の場合、そこまでの意識はしていない。むしろ、死とは何か。死と生が逆転した世界において、生きるとは何か。そんなところの思考実験と呼べば箔はつくだろう。


『邪魔しないでキャンディ』

[解題]
非現実なキャラクターを妄想してて、こんな昆虫を思いついた。想像ではもっときちんとした冒険譚になるべきはずが、自殺なんかと結びついたことで魅力を引き出せずに終わってしまった。何より、女性主人公の描き方に苦労する。




『創世記のゴーレム』

[解題]
かつて《1000文字小説》というサイトにこれを載せたら、2ちゃんねるで「知識と知恵を混同して書いているっ」なんて知識と知恵を混同した読み方しか出来ていない感想が晒されたという作品。「よく読め、だあほ」と言ってやりたかったのは昔々。
テーマは《魔術師》。これも角川タロットボックスのオマージュである。テーマへの追究は今ならもっと別な形にしていたと思う。でも、そんなテーマでないとこういう作品は書かないと思うので、よしとしよい。





『王国の風』

[解題]
『万魔殿』の項にて無国籍なファンタジーが好きと書いたが、一方でエキゾチックなファンタジーも好き。『王国の風』はそういう意味であまり好きではないファンタジーを書いた。どこか西洋版『千と千尋の神隠し』とも呼べそうなワンシーンの切り出しだが、意識したわけではない。また、《百年庭園》という呼称は、怪奇幻想短篇『三通のメルヒェン』と共通しているが関係はない。
mixiでの企画『風が吹いた。』からはじまる1000文字小説のために執筆した。




『万魔殿』

[解題]
個人的な嗜好として無国籍感があるファンタジーが好き。異国情緒が幻想性を掻きたてることも無きにしも非ずだが、醸し出す風情はやはり幻想の湯気であることが望ましい。本作の場合はモザイクじみた設計になってしまったが、実際の塔の造型と比較するためにこれぐらいが限度だったかのように思う。
作品の主となる存在はまるでギャグ、まるでチープな子供だましに過ぎない。だからこそファンタジーを忘れた大人への成長という意味で、“永遠の夢”という単語を使用した。
『月夜のでんしんばしら』の叙情性には到底敵わないが、これはこれで地味に気に入っている。





『3年2組の河野君』

[解題]
この作品の根幹である河野君自体は元から頭にあり、おおよそこういう形に落ち着くのでないかというアイディアは以前からあった。視覚的なエログロも落ち着いてきた頃合、少し風変わりなものを書こうということで、旧い着想を引っ張り出してきた次第。
少し思っていたものとは違うものの、筒井康隆『姉弟』を意識した(というかパクった)禁断の関係を想起させるオチは、分かりづらい程度が最適かと思う。
小生と同郷出身のホラー小説賞受賞作家・飴村行氏のデビュー作『粘膜人間』にも河童が登場する。無論、関係はない。





『レッドキングの結婚』

[解題]
『短編』初参加作品。当初、『多々良島』云々は言及していない600文字弱の作品だった。1000文字改稿の際に加筆したのだが、新たな思い付きではなく、元から頭にはあった。しかしあくまで玩具としてのレッドキングを登場させたかったために、省略した部分である。結局のところ、『短編』ver.と改稿ver.大した違いはない。





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