ラプンツェルに会いに行くのか、ア・バオア・クーに会いに行くのか、それとも青髭……ピーターパン……?
万魔殿(パンデモニウム)とも呼ばれる、東方のだだっ広い荒野の真ん中に、黒々とした巨塔があって、そこに友人たちは入っていく。ソーサラーの帽子のように崩れた屋根を持つ塔。シルエットはサグラダ・ファミリアを彷彿とさせ、その佇みは何だろう。K・ミヤザワの『月夜のデンシンバシラ』の挿絵を思い出した。
頭頂の窓から鳩時計の小鳩よろしく赤い口を持つ蝙蝠が飛び出て来て侵入者を追い立てる。
……暗い……涼しい……おい、しっかり光を照らせよ。
……この塔に……何が……聞いたことが……か。
……さあ知らない……何が……んだ。
スイッチが押しっ放しになっている無線から二人の声が漏れる。彼らの声を離れた岩陰で聞いている。見張り番だ。
……聞いた話だ……実はこの塔には……。
背後の森がざわついた。荒野に風が吹いたのだ。それが悪魔の嘲りに聞こえて、怖気立つ。月は雲に隠れて見えないが漏れる月光で塔のシルエットが闇に浮かぶ。光のマジックだろうか、一瞬塔の外壁が震えたように見えた。
窓から飛び立つ蝙蝠の数がどんどん増えている。辺りの中空を暗黒の飛行隊がデモフライトをしている。キキキキ、と耳障りな声。帰りたいと遅まきながら思った。
……実はこの塔には……何もいないんだ……。
……でも……雄叫びを聞いた人間が……。
……雄叫びを上げたのはだな……。
ノイズ混じりの友の声。
……塔そのもの……。
それきり無線からは何も聞こえなくなった。蝙蝠が一際高く、悦ぶようにいなないている。地割れのような豪快な音が響いて、塔が動き出した。頭頂から二割ほど下の部分に切れ込みが入り、白い瞳孔を持つ紅の鋭い眼が開いた。同時に口らしきものも現れ、ムシャムシャと何かを食すように動いた。微かに友人たちの悲鳴が聞こえた。無線からは何かが擂り潰されるような音。顔を持った塔が腹を空かせて、口に入って来た餌を嗜んでいるのだ。
白い瞳孔を始終左右に動かしながら、つまみ食いをした少年のような顔で塔は食し終えると太く笑った。次いで雄叫び。
我慢仕切れず逃げ出した。震える空気に揉まれ、一目散に家に帰った。友人たちは戻って来ない。塔と目が合ったような気がして僕は、友人たちを見殺しにしたという罪悪感に苛まれながら、永遠の夢を視るため、布団に潜り込んだ。
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