[解題]
単語の羅列について、固有名詞に頼り過ぎているだとか、イメージの強要だとか手厳しい意見を貰うことが多い。確かに技術はないが、想像力の失せる文章が蔓延する昨今に辟易し、そんな意見は無視している。たとえそれが自慰的表現だと揶揄されても、だ。
単語独自のイメージを引き出すことも物語る上での作法だが、その力に腕を預けることもまた重要な礼節だと思っている。日頃から、言葉に、文字に拘らないで何が作家だと豪語している作者なので、作品群を一読すれば思い入れもご理解いただけるだろう。
結局、文字というのは連結することで単語になり、その瞬間、累乗的にアトモスフィアが膨らむ。それを切り詰め、継ぎ接ぎし、彫刻することが作家の仕事。料理人が厳選スパイスを存分に使った料理を創作する傍ら、自然の味を優先した料理を重宝するように、素材を生かすことも作家の使命である。
羅列という行為に嫌悪感を抱く向きはあろうが、一語一語噛み締めるように読んでいただきたい。その単語が抱える様々な印象。単語単位を味わう余裕は長編では与えられない。短文で世界を表現する1000文字小説ならではの嗜み方だと思う。
なお本作では、南国幻想を彩るアクセサリーとして、あるいはリゾートに流れる断続的な時間を表現するため、羅列を用いた。体言止めも断片的な運びを意図してのものである。
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