「変身!」とポーズをつけて仮面ライダーマンがヒーロー気取りをしていた頃、僕は気弱な怪人なめくじ男だった。
くよくよしているから、なめくじ男。安直なネーミングは、皆につけられた。僕自身も(今では癪に障るが)当時はそれが相応しいと思っていた。
つるんでいたメンバーはそれぞれそれらしい二つ名を自分でつけ、決めポーズや必殺技までこしらえて、学校、野原、公園、デパートの屋上と場所を変えては、ヒーローとの死闘を繰り広げていた。
その戦闘はインフレにインフレを重ね、収拾がつかなくなっても、戦い続けた。誰かの母親が呼びに来るまで、そして誰かが飽きるまで戦い続けた。
当時は大人たちに怒られもしたが、きっと僕ら自身が大人になってもこの戦いはずっと続くのだと思っていた。
あれから三十年。
“木の上の悪魔”怪人蜘蛛男は、大学六浪が決まった夜に、ステージを都心のビルに変え、蜘蛛男と呼ばれたまま逮捕された。
“機械の脳”魔界博士は、本当はライダーになりたかったのか、趣味のバイクで走っていたとある夜、ハンドルを切り損ね、一命は取り留めたものの、脳波測定器に繋がれたまま今も中央病院で眠っている。
“灼熱王”ファイヤーリザードは、昔から血の気が多く、飲み会の帰りに喧嘩を売ったあげく、チンピラにテキーラをぶっかけられ、火をつけられる始末。
“酔拳の使い手”モンキー大王は離婚を機に、酒に飲んだくれ、僕らが知らないいつの間にかにアルコール中毒で死んでいた。
紅一点“高貴な魔女”クイーンエリザベスは、青年実業家の玉の輿に乗り、一時はセレブとしてTVにも出ていたが、夫との詐欺行為が明るみに出、逃避行。今でも警察に“魔女”と呼ばれ、指名手配されている。
“ヒーロー”仮面ライダーマンといえば、最近放送が開始した新ライダーのマスクをつけて地方の劇場を回っている。この間は地元に来て、ウチの息子と遊んでもらった。歴代ライダーを演じられるのは世界で彼だけだろう。
そして、気弱な怪人なめくじ男だった僕は七年前に結婚し、今では二児の父。くよくよした性格は変わったような変わらないような。とりあえず、日本人を未だに馬鹿にしている二流の海外商社マンを相手に日夜、取引の戦いを続けている。
結局、その根底こそ、誰もが何も変わっちゃいないが、昔の仲間たちともし今再会したとしたら、彼らは口を揃えていうだろう。
一番変身したのは、僕であるってことを。
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