手のひらの海に、汐はまた満ちる。それまで待とう、死ぬのは。(皆川博子『ひき潮』より) ―――吉川楡井の狂おしき創作ブログ。

-週刊 楡井ズム-

   

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『怪人なめくじ男の変身』

[解題]
実のところ、小生は仮面ライダー<ウルトラマン派である。戦隊シリーズと比べるとなんとも言えない。特撮全般で話をすれば、特殊人間もの繋がりでは仮面ライダー>東宝映画の変身人間シリーズとなるのだが、それはまた別の話。
何ゆえ仮面ライダー<ウルトラマンなのかと言うと、脚本の好みもあるが、敵役の描き方に尽きると思う。
ウルトラマンは題名に正義のヒーローを冠していながら、実際毎回登場する怪獣が主役である。それを裏付けるための怪獣の魅力は語らずもがな。仮面ライダーもスタンスとしては共通しているのだろうが、怪人に魅力がないと個人的には思う。やっぱりデカくなくちゃ(そこか 戦隊ヒーローものでは怪人風情がとある行為で巨大化し、ロボと戦うという流れが遺伝子として後世の作品にも伝わっている。その点、怪獣好きとしては仮面ライダー<戦隊ヒーローとなる。まあ結局、どれも大好きなんだけど。最近の以外はね。

そんな感じで、『レッドキングの結婚』に対する愛情とは一線を画すであろう怪人愛に乏しい作品だが、これはこれで気に入っている。作品全体の趣向が現実主義に則ったものながら、その現実がヤリスギな感じが否めないのは、ヒーロー物特有のキワモノさに通じると思う。


「変身!」とポーズをつけて仮面ライダーマンがヒーロー気取りをしていた頃、僕は気弱な怪人なめくじ男だった。
 くよくよしているから、なめくじ男。安直なネーミングは、皆につけられた。僕自身も(今では癪に障るが)当時はそれが相応しいと思っていた。
 つるんでいたメンバーはそれぞれそれらしい二つ名を自分でつけ、決めポーズや必殺技までこしらえて、学校、野原、公園、デパートの屋上と場所を変えては、ヒーローとの死闘を繰り広げていた。
 その戦闘はインフレにインフレを重ね、収拾がつかなくなっても、戦い続けた。誰かの母親が呼びに来るまで、そして誰かが飽きるまで戦い続けた。
 当時は大人たちに怒られもしたが、きっと僕ら自身が大人になってもこの戦いはずっと続くのだと思っていた。
 あれから三十年。
 “木の上の悪魔”怪人蜘蛛男は、大学六浪が決まった夜に、ステージを都心のビルに変え、蜘蛛男と呼ばれたまま逮捕された。
 “機械の脳”魔界博士は、本当はライダーになりたかったのか、趣味のバイクで走っていたとある夜、ハンドルを切り損ね、一命は取り留めたものの、脳波測定器に繋がれたまま今も中央病院で眠っている。
 “灼熱王”ファイヤーリザードは、昔から血の気が多く、飲み会の帰りに喧嘩を売ったあげく、チンピラにテキーラをぶっかけられ、火をつけられる始末。
 “酔拳の使い手”モンキー大王は離婚を機に、酒に飲んだくれ、僕らが知らないいつの間にかにアルコール中毒で死んでいた。
 紅一点“高貴な魔女”クイーンエリザベスは、青年実業家の玉の輿に乗り、一時はセレブとしてTVにも出ていたが、夫との詐欺行為が明るみに出、逃避行。今でも警察に“魔女”と呼ばれ、指名手配されている。
 “ヒーロー”仮面ライダーマンといえば、最近放送が開始した新ライダーのマスクをつけて地方の劇場を回っている。この間は地元に来て、ウチの息子と遊んでもらった。歴代ライダーを演じられるのは世界で彼だけだろう。
 そして、気弱な怪人なめくじ男だった僕は七年前に結婚し、今では二児の父。くよくよした性格は変わったような変わらないような。とりあえず、日本人を未だに馬鹿にしている二流の海外商社マンを相手に日夜、取引の戦いを続けている。
 結局、その根底こそ、誰もが何も変わっちゃいないが、昔の仲間たちともし今再会したとしたら、彼らは口を揃えていうだろう。
 一番変身したのは、僕であるってことを。
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