手のひらの海に、汐はまた満ちる。それまで待とう、死ぬのは。(皆川博子『ひき潮』より) ―――吉川楡井の狂おしき創作ブログ。

-週刊 楡井ズム-

   

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『思い出』

[解題]








夜中の十二時、明るい部屋の中目がさめた。仕事から帰った後ソファーで本を読んでいるうち寝てしまったようだ。夕飯も食べてないし、朝洗った洗濯物も干していない。お風呂も沸かしてないし、あ、そういえば明日はゴミ出しだ。ペットボトルを洗わなければ。なんか寒い。十二月の終わりだというのにストーブをつけ忘れていた。あ、灯油切れた。
 すべて諦めて朝まで眠りたいところだったがそうもいかない。とりあえず一服してそれから・・・と思ったら煙草もなかった。仕事帰りに買おうと思ったのを忘れていた。ああもう。疲れている。最近疲れている。上司は自分の仕事を押し付けるし先週もゴミ出し忘れたしこないだはコンビニでコーヒー買ったと思ったら紅茶だったしあと・・・あとなんか思いつかないけど色々あった。思い出せないくらい疲れている。幸いまだ部屋着には着替えていなかったしとりあえず煙草を買いにいくことにした。
 ダウンジャケットを着て外に出る。一番近いのは歩いて十五分の自動販売機だ。冷気で耳が痛い。帽子も被ればよかったなー。とイライラしながら歩いていると、ガガガ、ガガガとなにか引きずるような音が聞こえてきた。ガガガガ、ガガガガ、ガガッ、ガッ、ガッ、なにか相当おもいようだ。自転車? いや、金属音はしない。段ボール? いや、コンクリートじゃ破けるか。ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、さっきから何かに引っかかってる。だんだん音が近付いてきているのでこのまま進めば何かを運んでいる人に出くわすだろう。手伝ってあげてもいいかな。と思って人気のない十字路に出るとやっぱり。大きな箱を引きずった人がいた。いた・・・けど物が大きすぎる。これは木でできた・・・浴槽。大人が三人入れるくらいゆったりした木製の浅い浴槽、を引きずろうとしている。太った人が顔を真っ赤にしながら引きずろうとしている。いろいろと不審に思ったが駐車場に入りたいのだと分かった。木製の浅い浴槽のしたを見ると段差に引っかかってるようだった。車なら少しアクセルを踏んでやれば入るくらいの段差だが綺麗に四角い木製の浴槽だとひっかかるのだろうな、と一目でわかるものだが・・・男性は気付いてないようだ。手伝いましょうか、と声をかけるとおじいさんは目を真ん丸くしてこちらを見ていたが、段差を指差した私の手を見ると照れたように笑いこくりとうなずいた。
 私は浴槽の前側に立ち、木製の浴槽と太い綱が繋がれた丸い穴に手をかけ上に持ち上げた。何で浴槽にロープをかける穴が開いているのか。重い。あやうくぎっくり腰になるところだ。なにか入ってるな。と浴槽の中を見ると白い袋が入っていた。でかい。十個以上はある。なんだ?夜逃げ?と思いながら二度三度と腰を落とし踏ん張る。浴槽の前側が段差の上にあがった。浴槽の後ろ側に立ち押してやる。ガリガリと音を立ててあっという間に浴槽が段差の上に上がった。暗闇の中だったが真っ赤にさせた顔にもっさりと生えた白い顎髭面がにこにこと笑いながらやったーというように手を大きく振った。私も大きく手を振り、じゃ、気をつけてーと別れた。
 煙草を買って戻ったときは駐車場に彼の姿も浴槽もなかった。車に荷物を積んで出て行ったのだろう。家に帰って、家事をし、泥のように眠った。明日は筋肉痛だろう・・・
 朝、いつものうるさい目ざましで起こされた。筋肉痛はまだ来ていない。年とったな。とりあえず一服。と枕元を探るとなにか箱に触った。なんだっけ?とひょいと手にとると赤いチェックの包装紙につつまれた箱だった。プラプラと揺れる小さなカードには、MERRYCHRISTMASと書かれてあった。
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