「くらえ、プラズマ火球っ」
「そんなんじゃ届かないぜ。放射熱線」
ゴジラの口から吐き出される白い斜光が、見えた。ぼくのガメラが放った火球はゴジラの足元をかすめたのに、ガメラは放射熱線をまともに食らってしまう。
「ぐあっ、やられた。まだまだ、ブレイクファングっ」
ガメラがゴジラの右肩に噛み付く。
「効かないね。体内放射」
ゴジラの黒い体がオレンジ色に耀く。本当はそんなことあるはずないのに、確かにそう見える。ガメラは弾き飛ばされて宙返りをした。そのまま回転ジェットで空を飛び、ゴジラの鳩尾に体当たりする。けれどゴジラはよろめきもせずに、ガメラの巨体を受け止めると地面に押し倒した。
「亀はひっくり返ると弱いんだ。とどめだ、バーンスパイラル」
紅が渦を巻いた強力な熱線が、ガメラの腹に注がれる。またぼくの負けだ。ソフビ人形を引き離すと、ぼくらはブランコに腰かけた。
「いっつもゴジラが勝つなんてひきょうだ」
「ゴジラの方が強いに決まってるじゃないか」
「誰が決めたんだよそんなこと」
「恐竜と亀だぜ」
「トカゲだろ。たまには勝たせてくれよ」
稜線にそって立つ電波塔の列を食むように、夕陽が落ちていく。手の中のガメラの、甲羅のギザギザを指でなぞりながら、ぼくは奥歯を噛みしめた。もっと怒りたいけど、怒るのがなんか恥ずかしかった。
「じゃあさ、交換しようぜ。ゴジラとガメラ」
彼はゴジラを差し出す代わりにぼくの手からガメラを奪った。
「決闘は来週にしようぜ。それまで修行だ」
なんか腑におちない。けど、それも面白いかなと思った。ぼくはゴジラとガメラどっちも好きだ。どっちもかっこいい。でも、怪獣王はゴジラだけだって言ってやまない彼は、それでいいのだろうか。家に帰ると、デスクスタンドの下でゴジラを動かした。これでもしぼくが勝ったら、ガメラよりゴジラの方が強いことの証明になってしまう。
「なんで交換しようなんて言ったんだろう」
腕を振り回すゴジラの鋭い眼光に、ぼくは問いかけた。
決闘は実現しなかった。負けてくれようとしたのか別の意図があったのか、目的は分からずじまいのまま時が経った。
いい加減、捨てたらどう。妻はよく言う。時代後れの玩具だから息子も喜ばない。けれど捨てられないよ。このゴジラは、彼だ。戦友だ。
決闘の行方は彼しか知らない。
受け継がれることのない神話に、ぼくは立ち向かっていかなければならないんだ。
何度でも。
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