給料入ったんで大人買い。買ったのは追悼記念に一気に出版された今敏氏のマンガ5冊。
アニメ映画監督の印象が強い氏だが、もっともそのデビューはマンガ家としてであった。
氏監督のアニメは押さえていたものの、マンガの方は買おう買おうという気はあったものの、機会がなかった。このたび、『海帰線』は新装版、その他については初単行本化ということで、不謹慎ながらも嬉しい限りである。
どれも氏の努力(あえて才能とは呼ばない)が結実したものであり、これらが長らく日の目を見なかったことには愕きだけれども、この契機で開陳されたのはそれだけ氏の逝去を惜しむ声が多かったわけだ。あやうくPCを開くのも忘れ読み耽ってしまいましたよ。
読書の前にもう一度、氏が遺した
NOTE『さようなら』を読み返して、涙が込み上げる直前のまま、いざ……堪能。
新装版 海帰線 (KCデラックス)
風景描写に息を呑み、ぬかりない人間描写に舌を巻く。
極めてオーソドックスな異生物とのコンタクト物、今敏流のケレンミは薄く、題材や絵柄はことのほか時代を感じさせる。けれどもこの時点で一本の映画がすでに出来上がっていた。
斬新な手法などないが、技法を切り詰めて切り詰めて丹念に仕込み、物語を築いていけばここまで色褪せないものを描ききることが出来るのだ。ただただそこに感服する。
OPUS(オーパス)上(リュウコミックス)
OPUS(オーパス)下(リュウコミックス)
まさに今敏流メタフィクショナルメタフィジカル。冒頭からして浦沢直樹『
BILLY BAT』を思わせながらも、大友克洋に影響を受けていると思しき筆致で順当にコミカルな冒険譚を描きつつ、物語を遡及していくと『
パーフェクトブルー』を想起させる性犯罪の絡みや、『
妄想代理人』を想起させる現実へと侵蝕してくるメタ描写ににやにやしながら、創作者としても胸を打たれるおまけつき。
そして極めつけは未完と謳われながらも、本邦初公開の幻の最終回。無論、絵自体は鉛筆書きだったり“未完“ではあるが、すべてに落とし前をつけてくれるオチは果たして元からあったのだろうか。いいや、そんなはずはない。これは版元が変わった異形コレクション『
帰還』と同じ現象に過ぎないのだ!!
と昂奮してしまいそうになるほど爽快……いや、煙にまかれたオチなんだけど。
ということで、今日は2冊読みました。
セラフィム 2億6661万3336の翼(限定版)(リュウコミックス)
初回限定版についてくるブックレットにはアニメ関係者たちのインタビューが記載されている。
夢の化石 今敏全短篇 (KCデラックス)
今敏の短編をすべて網羅している。90年出版の旧『海帰線』に併録された『キンチョーの夏』もこちらに収録されている。その分厚さ、国語辞書級。
今敏と言ったらあの人、音楽担当(?)平沢進のインタビューもついている。
新刊だけに、五千円弱の値段ながら、とても安く感じられる。
まさしく永久保存版の孕む永遠の煌きには、僅かな代償だろう。
それは嘗て存在した秀才の、有限の生命を削った証なのだけど。
改めて、ご冥福をお祈りします。
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