オフィーリア。
……皓い空。君は結晶となり、紅涙を絞る。
オフィーリア。
……誰もいなくなった公園で、長椅子(ベンチ)の前で、噴水の前で、君はじっと動かず時の震えを感じている。その身に宿すのは、命の煌めき……無垢の夢……藝術という君を存在せしめるもの……あるいは、来たる秋の日までの時の落滴なのか。
隣に立つ男は饒舌で、君らのパフォーマンスが終わる時刻になると、君のことを何でも教えてくれた。出身地……血液型……愛読書……お気に入りの香水……太陽を浴びるとウインクをする癖……彼は密かに君に嫉妬していたという。
人体を埋める細胞という細胞はいつ如何なる時でも、死する時まで活発に動き続ける。でも、君は傍目にはそれと気付かないくらい、動きを止めることが出来る。
君も、君の友人もプロであった。少なからずパフォーマンスに誇りをかけ、生きがいと信じ込んでいた。
そんな彼も今朝早く、何処か見知らぬホテルの一室、ソファにもたれて、死んだ。
彼は笑っているようだ。死して君を超えたと思っている。
反則だと分かっていながら、彼は自嘲している。その声が君には聞こえていただろうか。君は嘲ることすらしない。彼は知らなかったようだ。その反則でさえ、君に先を越されたことすらも。
オフィーリア。
君と彼の関係は未だに掴めない。無駄な想像で嫉妬していた時もあったが、何だか遥か昔のことのようだ。
だから今こうして君を部屋に迎えることが出来たのは、まるで夢のようでもあるのだ。
オフィーリア。
記憶の中の君はいつも動かずにいる。声をかけても、指で触れても、君は瞬きひとつせず、誰を楽しませることもなく、自身の技をただ洗練させるためだけにあの秋を生きた。
たった一度、西日が鋭く射したその時に、軽くウインクをしたその顔が忘れられない。
その時、君は紅葉を散らしたように実は笑っていたのだね。失敗に照れながら君は、それでも生をひた隠しにして、立ち並ぶ樹木や街燈に溶け込もうと、動かずにいる。
だけれど僕は知っている。その脣は紅葉のようにかさつきを演じていても、君の瑞々しい質感は消えやしなかった。
健気な君はそうとは気付かずに、風に靡く栗色の髪を除いて、彫像と化している。
そんな君は素敵だったが、何故だろう、今目の前にいる君は、何一つ変わらないのに、あの頃の美しさが微塵も感じないのだ、あるのは空虚、君は、今でも、動かない。
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