手のひらの海に、汐はまた満ちる。それまで待とう、死ぬのは。(皆川博子『ひき潮』より) ―――吉川楡井の狂おしき創作ブログ。

-週刊 楡井ズム-

   

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『時を忘れた時計屋の話』

[解題]
『短編』参加作品。C・ノーラン『メメント』や銀色ウサギが魅力的な『ドニー・ダーコ』などのリバース・ムービー的なものが書きたかった。一連の文脈を縦書きにして俯瞰すると、ラーメンズの小林賢太郎ソロライブ『Potsunen』に登場する悪魔を髣髴とさせるような、翼を広げた何かに見える……ように、マクロ視点でこそ楽しめる作品だと思う。内と外に流れる時間の交差の描き方が未熟だったか。

 柱時計の鐘が、十二回だけ鳴り響く。
 時計屋の腕時計は十一時を差していた。
 ため息をつき、時計屋は修理道具を携え、立ち上がる。
 古ぼけた柱時計の姿がそこにあった。
 木枠、文字盤、真鍮の振子、くすんだ硝子戸、無駄な装飾。
 柱時計の前にしゃがみ込んだ時計屋は、年季の入った柱時計のその佇みに、時間の果ての恋人を思い出す。
 君のいうとおりだったよ。
 時計屋は虚空に言葉を吐く。
 ようやく自らを縛る時間の鎖の存在に気付いたのだ。
 そう、恋人が散々口説いていたにも関わらず。
 気付くのが遅すぎた。
 だが、今となってはどうすることもできない。この、独りには広すぎる静かな屋敷の大広間で、誰かの面影を何処かに感じながら、時計屋は時計の鐘を聞いている。
 この時計には時間が詰まっている。かつて、誰かが生きた時間が。
 そこに刻まれた予定調和を崩さないためには、壊れてしまった時計を直さなければならない。
 それが時計屋の宿命だった。
 時計屋は道具を拾い、時計に手を当てる。
 指先から時間の稲妻。雑音と耳鳴りと、こめかみに疼く痛み。
 一瞬の煌めきと誰かの声。
 “時間に囚われないで”

 衝撃で道具を落としてしまう。目の前で柱時計が震えていた。時計屋は、静かに歩み寄る。

 “時間に囚われないで”
 一瞬の煌めきと誰かの声。
 指先から時間の稲妻。雑音と耳鳴りと、こめかみに疼く痛み。
 時計屋は道具を拾い、時計に手を当てる。
 それが時計屋の宿命だった。
 そこに刻まれた予定調和を崩さないためには、壊れてしまった時計を直さなければならない。
 この時計には時間が詰まっている。かつて、誰かが生きた時間が。
 だが、今となってはどうすることもできない。この、独りには広すぎる静かな屋敷の大広間で、誰かの面影を何処かに感じながら、時計屋は時計の鐘を聞いている。
 気付くのが遅すぎた。
 そう、恋人が散々口説いていたにも関わらず。
 ようやく自らを縛る時間の鎖の存在に気付いたのだ。
 時計屋は虚空に言葉を吐く。
 君のいうとおりだったよ。
 柱時計の前にしゃがみ込んだ時計屋は、年季の入った柱時計のその佇みに、時間の果ての恋人を思い出す。
 木枠、文字盤、真鍮の振子、くすんだ硝子戸、無駄な装飾。
 古ぼけた柱時計の姿がそこにあった。
 ため息をつき、時計屋は修理道具を携え、立ち上がる。
 時計屋の腕時計は十二時を差していた。
 柱時計の鐘が、十一回だけ鳴り響く。
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