柱時計の鐘が、十二回だけ鳴り響く。
時計屋の腕時計は十一時を差していた。
ため息をつき、時計屋は修理道具を携え、立ち上がる。
古ぼけた柱時計の姿がそこにあった。
木枠、文字盤、真鍮の振子、くすんだ硝子戸、無駄な装飾。
柱時計の前にしゃがみ込んだ時計屋は、年季の入った柱時計のその佇みに、時間の果ての恋人を思い出す。
君のいうとおりだったよ。
時計屋は虚空に言葉を吐く。
ようやく自らを縛る時間の鎖の存在に気付いたのだ。
そう、恋人が散々口説いていたにも関わらず。
気付くのが遅すぎた。
だが、今となってはどうすることもできない。この、独りには広すぎる静かな屋敷の大広間で、誰かの面影を何処かに感じながら、時計屋は時計の鐘を聞いている。
この時計には時間が詰まっている。かつて、誰かが生きた時間が。
そこに刻まれた予定調和を崩さないためには、壊れてしまった時計を直さなければならない。
それが時計屋の宿命だった。
時計屋は道具を拾い、時計に手を当てる。
指先から時間の稲妻。雑音と耳鳴りと、こめかみに疼く痛み。
一瞬の煌めきと誰かの声。
“時間に囚われないで”
衝撃で道具を落としてしまう。目の前で柱時計が震えていた。時計屋は、静かに歩み寄る。
“時間に囚われないで”
一瞬の煌めきと誰かの声。
指先から時間の稲妻。雑音と耳鳴りと、こめかみに疼く痛み。
時計屋は道具を拾い、時計に手を当てる。
それが時計屋の宿命だった。
そこに刻まれた予定調和を崩さないためには、壊れてしまった時計を直さなければならない。
この時計には時間が詰まっている。かつて、誰かが生きた時間が。
だが、今となってはどうすることもできない。この、独りには広すぎる静かな屋敷の大広間で、誰かの面影を何処かに感じながら、時計屋は時計の鐘を聞いている。
気付くのが遅すぎた。
そう、恋人が散々口説いていたにも関わらず。
ようやく自らを縛る時間の鎖の存在に気付いたのだ。
時計屋は虚空に言葉を吐く。
君のいうとおりだったよ。
柱時計の前にしゃがみ込んだ時計屋は、年季の入った柱時計のその佇みに、時間の果ての恋人を思い出す。
木枠、文字盤、真鍮の振子、くすんだ硝子戸、無駄な装飾。
古ぼけた柱時計の姿がそこにあった。
ため息をつき、時計屋は修理道具を携え、立ち上がる。
時計屋の腕時計は十二時を差していた。
柱時計の鐘が、十一回だけ鳴り響く。
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