手のひらの海に、汐はまた満ちる。それまで待とう、死ぬのは。(皆川博子『ひき潮』より) ―――吉川楡井の狂おしき創作ブログ。

-週刊 楡井ズム-

   

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『糜猿たち』

[解題]
これも気に入っている作品である。怪奇(ビザール)という単語を覚えたのはもちろん井上雅彦伯爵の発言からなのだが、発展性の在るシンボルとしてうまく思いつけた気がする。
猿というキャラクターは『不機嫌なモノリス』でも扱っているのだが、やはり元を辿れば筒井康隆『母子像』のシンバル猿に行き着くだろう。しかし本作の源泉は、キャラクターといい問答といい、河野典生『ルーツ』の模倣に過ぎない。数あるショートショートの中でも傑作中の傑作だ。




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『愛蓮説に添ふ』

[解題]
宋代の儒学者・周敦頤(1017~73)による詩を引用した本作。昔からこのようなアプローチはしたいと思っていたが、なかなか機会がなかったのでよき体験。本筋の物語、その感慨が原典に敵っているかどうかは一目瞭然で大敗を期しているのだが、等身大の俺を描けた気分であり、また蓮華というモチーフについても書き切った満足感。
平沢進『Lotus』、『ロタティオン』の音楽を聴きつつ、繁華な夜の景色に酔い痴れるのも乙なもの。他の作品と自己評価の観点が異なるのは致し方ない。


愛蓮説

水陸艸木之花、可愛者甚蕃。
晋陶淵明独愛菊。自李唐来、世人甚愛牡丹。
予独愛蓮之出淤泥而不染、濯清漣而不妖、中通外直、
不蔓不枝、香遠益清、亭亭浮植、可遠観而不可褻翫焉。
予謂、菊花之隠逸者也、牡丹花之富貴者也、蓮花之君子者也。

噫、菊之愛、陶後鮮有聞。蓮之愛、同予者何人。牡丹之愛、宜乎衆矣。

(引用元はこちら






『詩人の水』

[解題]
タイトルから平沢進1stアルバム『時空の水』を想起させるが、確信犯ではありながらも内容の意識はしていない。
むしろ津原泰水『安珠の水』の影響が色濃いだろう。ここ最近、課題としている水を体現する小説というものの一パターンとして書いた。この課題は『安珠の水』や皆川博子『断章』から継承するもので、1000文字以外で挑戦する予定がある。
本作はそっちで用いる予定のない水の流れを素直に表現しようと思った。モチーフは感情の渦……否、心の洗濯とでも言っておこう。





『我が家の贖罪』

[解題]
「幽」投稿怪談(テーマ“家”)投稿作品。
本作もどちらかというとリドルストーリーである。ガジェット的には奇想小説でありながら、作者的には幻想小説であると疑っていない。ところが、単なるサイコであるとの弁解も出来、怪談の範疇に入れるには少し行儀が悪い。
昔、飼っていたハムスターを死なせてしまった経験がある。悪いのは俺だ。プリンという名前ではなかったが、ジャンガリアンハムスターだった。飼い主の身勝手な飼育放棄により死んでしまった彼女。
本作は彼女への懺悔、贖罪を乞う物語であるといまはじめて思った。この罪滅ぼしはいつか別の作品で改めて行いたい。




『ヘッドフォンチルドレンと風のささやき』

[解題]
前回の100作のなかにも、そしてもちろん今回の50作のなかにも、昔、掌編用に書きとめていた着想、タイトルがそのまま継承された作品が幾つかある。たとえば『不機嫌なモノリス』と本作がそうだ。『不機嫌なモノリス』はともかくとして、本作は状況こそ着想どおりではあったが、動機付けの部分がかなり進化している。
この進化とは、改善されている、成長していることと同義ではなく、現時代に近づいているという意味だ。
聊か現実社会の暗雲を好き勝手に寄せ集めたかのような作品で、訓示も寓意もデフォルメに埋没していそうな気がしてしまうのだが、こういう作品も書かないと時代に取り残されるようで怖ろしいのだ。そうでなくても時代後れの作風なのだから。
ちなみに、昨今世間を賑わせた北○鮮のミサイル発射を髣髴とさせる部分があるが、もちろん意識はしている。現実の一件は失敗というよく分からない顛末となってしまったが、本作もリドルストーリーの手続を行っているのでよく分からないという意味では人のことが言えないのかも。よく分からないけど。






『不機嫌なモノリス』

[解題]
タイトルにモノリスとあるように、また、猿が登場するように、『2001年宇宙の旅』は確実に源泉にある。しかし、ビルの描写などは『ダークシティ』、『インセプション』的であり、十割、『2001年宇宙の旅』にオマージュを捧げた作品であるとは言い難い。
オチが実にまどろっこしいことになっていたり、モノリスとの関連が不明瞭であったりと、聊か意味ありげな作風なことからも予感させるように『エコーエコー』と同じく、作者なりの複雑な作りこみが下敷きにある。けれど本作の場合は特に、韜晦であることが印象的でもあるので深く語ることが絶好であるとは思えない。タイトルのモノリスとは何なのか。作中の男女は、如何なる状況に追い込まれたのか。モノリスは何故、不機嫌なのか。何を齎したのか。
それらすべて読者の想像にお任せする。





『バウーのこと』

[解題]
前回の怪奇の章に収録した『バリヨン』は水木しげる作品を引用した作品であった。本作も同様で、タイトルのバウーとは悪魔くんに登場する十二使徒の一員、家獣のことである。「幽」投稿怪談のために書いた作品であり、その回のテーマはそのものずばり“家”。なお、その回、実際に投稿したのが『我が家の贖罪』となる。
なぜ本作を投稿しなかったのか、理由はすでに忘却の彼方だが、序盤の独り語りやファンタジーテイストに食傷気味だったからじゃないかと思う。これが怪談の難しいところだ。
ちなみにパイナップルは家獣の造形から、カジューは家獣と果汁のダブルミーニング(?)。







『煙の群れ』

[解題]
火のないところに煙は立たない、という諺に縛られてしまったか。貝煙草というガジェットは自身、気に入っているものであり、調理の仕方は間違ってはいないと思う。ところが、事象が先行し物語に魅力が伴ったかと問われると……むぅう。
ちなみに、喫煙とは違った方向で煙を描いた『煙の群れ』Bパターンがある。こちらは怪談テイスト。次回、パート2が整った頃にはお披露目できることだろう。





『勇敢なる騎士の幻』

[解題]
『クリトリスの摩耗』のBヴァージョンと呼ぶべきであり、ある意味では自信作だが通常の物差しで慮れば、相当な愚作である。
この《千文字の饗宴》は五つのテーマで分かれているが、三つはジャンル分けであり、ひとつはいわゆるR指定である。ところが皓の章は仕組みが異なっている。文体実験であったり、作者にとっての冒険であったり、多肢に渡る変な小説を載せる場である。『クリトリスの摩耗』がSFという逃げ場があったのに対し、本作は四面楚歌の状態で男にとって不可思議な存在である、女性の本質について肉薄した。誤りだということは承知の上である。実験を繰り返し、定理は導き出されるのだ。ということで、勘弁してくれチョ。





『回顧のころ』

[解題]
これも『とうにピシピシは壊れて』と同じく、母への言及を図った作品である。物語の不出来はともかくとして、横溢する怪談の語り口を踏襲したものであり、数あるなかでも結構な冒険心であった。殊更、影が薄く、自分好みでは間違いなくないのだが、こういうのがお好きな読者もいるのだろう。むしろそちらの絶対数が多いのではないかと懸念している。





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