手のひらの海に、汐はまた満ちる。それまで待とう、死ぬのは。(皆川博子『ひき潮』より) ―――吉川楡井の狂おしき創作ブログ。

-週刊 楡井ズム-

   

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『ダブデの休日』

[解題]
このタイトルで、ヘップバーンの名作映画とか、ダブデ? ジオン軍か!などと思われてはいけないので、先に断っておく。タイトルにはさしたる意味はない。
歯の浮くような作品もたまにはいいだろう。
とりあえず、マヨネーズなんて死ねばいいのに。そう思う作者であるとだけ申し添えておく。


「マヨネーズが食べられないひと、はじめて見た」
 おいしそうにマヨネーズのたっぷりかかったお好み焼きを頬張る彼女を前に、苦笑しながら、かつおぶしの盛られた自分の皿に箸をつけた。
「せっかくの初デートなのにこんな店で悪いね。俺、イタリアンとかよく知らなくて」
 休日で混雑するお好み焼き屋の店内を一望しつつ、彼女は首をふった。
「そんな気にしなくてもいいよ。イタリアンも好きだけど、お好み焼きも好き」
 そう微笑む彼女から目を反らしたがったわけではない。視線が彼女の耳元に行ったのは、そこに紛れもなく、瞼に傷のある剥げ面の男の顔が浮かんでいるからで、そういうことに慣れてはいたが、状況が状況だけに気が散ってしょうがなかった。
 彼女とはもう三年来の知人だ。と言っても、それはネット上の話で、実際に会ったのは今夜で四度目。三度は合同オフ会だった。
「いつから書いてるの」
 書いている、と動詞だけでも二人の間では小説の話だと通じる。彼女とは怪談系の千文字小説を募るサイトで知り合った。とはいえ、唐突に小説の話をされても返事に窮した。かつおぶしが胸に突っかかる。
「……もう五、六年は経つ」
「ってことは大学時代からね。じゃあ大体書き始めた時期は同じだ」
 俺は今年で二十七。アパマンショップの営業をやっている。彼女は俺の四つ下。今年大学を卒業したての新米看護士だ。
「どうして怪談なんか書こうとしたの」
「昔から好きだったんだよ」
 昔から霊が見えた、とは言えなかった。怪談書きの中にも霊感体質の人間は幾らかしかいない。怪談好きを除けばただの人だ。特別〝見える人〟に怖れを抱くものもいる。彼女がどのパターンか確かめたい気もしたが、時期尚早だろう。もう少し様子を見ねば、と思ったところで、例の剥げ坊主がこちらを睨んだ。
 しっしっと退けるような視線を送り返してやると、不思議そうに覗き込む彼女と目が合った。どうしたの?
「いや、なんでもないよ」
 すると、彼女はふふっと笑った。この女性が幾つもの怪談を拵えたとは思えない、あどけない笑みだ。
「私たちきっとうまく行くわ」
「どうしてだい」
 彼女は身を乗り出して、囁いた。
「うちの人、あなたの後ろにいる人のこと、気に入ったみたい」
 途端に耳元を、黒くて長い毛髪がふわりと戦いだ気がした。
「君も、なのか」
「ずっとダブルデートだけど、いいかな」
 俺は安心してもなお、苦笑いを隠せない。
「君がよければ」
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