さてもう一杯。飲んだら早々ずらかろう。一杯飲んだらあら不思議。日頃のやなこと仕事のやなこと何でもかんでも忘れに忘れて、浮き足気分で高飛びだ。金の切れ目が縁の切れ目と、識ある輩は言うけれど、識があっても才がない。知恵はあっても勇気がない。そんな輩は大人しくしみったれた世で野垂れ死ね。ちょいと、こんな時間だ。飛行機の、出発時刻に間に合わない。今から外でTaxi拾って、よその国へとひとっ飛び。だんな、銭はここに置いてくぜ。がらりと戸を開け暖簾を潜り、紅、橙、数多の暖色、渦巻く都会の夜景を流し見、役者気取りで悠々闊歩。かっぽかっぽ、お馬が通る。夜店の客引き、げろ吐く若造、そこのけそこのけおいらが通る。肩を叩かれ振り向きゃ無骨なおじんが二人睨みを効かせ、連行されそになる一大事。社長殺しに金銭泥棒、撲殺犯且つ金庫荒らしと並べ立てるはまた物騒な、思い当たりのない話。警官二人を振り切り駆け出す、混沌の町、摩天楼。自転車、灰皿、若人の群れ、Caba嬢、Hostes、billboard。雑音響く拱廊抜けて、一寸先は闇の路地裏、黒が黒でない黒猫蹴り上げ、蠢く御器齧り、溝鼠。人が踏み入る場所ではないとこ、漫ろも漫ろに密入国し、行き着いた先は吹き抜けの、都会の死角、行き止まり。追っ手の跫音迫りて覚悟を決めては汚れた壁に手をかけ、一心不乱に登れば視界はやがて朧気、霞みの衣。周囲を影が飛び回り、花畑に舞う蝶々の様にひらひらひらひら何処ぞのparade、瞼に母視る乳母車。ちゃりんちゃりんと耳驚かす、小銭の音色、母心。故郷に飾る錦は襤褸と成り果て、息子は此処まで育ち、母の俤、涙を絞る。何故に此世は斯くも偏り、地獄に堕とす酷なる獅子か。黒い鬣、血塗れた牙で、半身喰らうも余りの不味さに唾液を垂らし、尻尾を丸め、Neonの夜空に消えろ、黒猫。蝶が導く灯りの先に、橙に映える電波塔。絶景かなと嗜む心得、知らぬ俗世の者どもさざめく、集る虫けら押し競饅頭。Search-lightの直射を受ければ、蝶々は火に入る蟲と化し、灰燼に帰す灯蛾の名残をばら撒き花咲く姥桜、千夜一夜の宝籤。高笑いの谺は遠退き、背面全体走る痛みよ。宙に投げ出す己の手先は花弁どころか闇こそ掴めず、繻子押延べた様な下界はSmog覆う天窓と化し、壁から落ちた体勢のまま路地裏寝そべり飯事遊び。追っ手が照らす懐中電灯、Search-lightが噫眩し。
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