手のひらの海に、汐はまた満ちる。それまで待とう、死ぬのは。(皆川博子『ひき潮』より) ―――吉川楡井の狂おしき創作ブログ。

-週刊 楡井ズム-

   

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H23.7.6 書店にて

  
Q.E.D.証明終了(39) (月刊マガジンコミックス)
C.M.B.森羅博物館の事件目録(17) (月刊マガジンコミックス)
SFが読みたい!〈2011年版〉発表!ベストSF2010「国内篇・海外篇」


なにが失敗したかって、発売してたのに気付かなかったのもだけど、同時発売のC.M.B.森羅博物館の事件目録(17) (月刊マガジンコミックス)が間違えてC.M.B.森羅博物館の事件目録(14) (月刊マガジンコミックス)を買っちまったことでげす。
じゃなくて、……うん。
また明日交換にいってきます。
【追記】交換してきやした。


さて、まずあらすじ。
アパート"ああばんひるず"、長いこと開かずの間と化していた6号室で大家だった女性が首を吊っていた。第一発見者はアパートに住む(ヌンチャク)占い師。現場の状況からそれは自殺と断定された。2ヵ月後、大家の孫である友人から話を聞いた可奈は、アルバイトの大家としてアパートを訪れる。アパートに住む面々もまた大家の自殺に懐疑的であり、またそれぞれ些細ながらも動機を持つものたちばかり。果たして大家は本当に自殺したのか、それとも……(『ああばんひるず6号室事件』)
「ボイジャー計画」のメンバーだった恩師に招かれハワイを訪れた燈馬たち。グランドツアーと称し、出迎えた恩師だったが、その夜に"さよなら"とメッセージを残し、宿泊先のホテルから姿を消す。「ボイジャー計画」の真っ只中だった35年前、恩師は新婚だった妻を亡くしていたのだった。その原因は計画に没頭するあまり家庭を顧みなかった恩師にあるらしいのだが……(『グランドツアー』)


まず、表紙が可奈の水着です。
やっぱ夏という季節は素晴らしいですね。

『ああばんひるず6号室事件』
思えば灯台下暗し。事件の性質それそのままを表していたという、なくはないパターンながら、Q.E.D.では初めてな気もするタイトル。
この漫画は二編のうち、殺人一編、その他一編と大方決まっているので、あ、今回は殺人が一編目に来ているのかと勘繰りつつも、作品から発せられる雰囲気がコメディチック過ぎやしないかと思えば……ちなみにこの場合、罪状は何になるのでしょうか。まあ、なんでもいいけど。
前述したタイトルのくだりと、オチの燈馬の台詞、つまるところ犯人の盲点が連関し合うところなんざ、もうニヤニヤ。(ヌンチャク)占い師が執拗に魔のせいにしていたのも納得です。
もうアレがでかでかとコマいっぱいに出てきた時点で大家の死因は想像できたものの、アレのトリック、というか防犯ブザーの在り処については分かり易すぎる上に、ちょいと強引。見取り図まで用意して、わざわざ床板天井板外してうんぬんは、要らなかったんじゃないの。
にしても、婆ちゃん放っておけない症候群の僕は、「け……結構重いね……」のくだりに、胸が締め付けられましたよ。まさに心臓鷲掴みにされたような。ああ、かわいそう。

『グランドツアー』
同作者の長編漫画『ロケットマン』を彷彿とさせる宇宙もの。とはいえ、仲間内の愛憎がメインで、特有の浪漫はちょい薄め。
人間関係と一連の事件の全体図を、惑星の重力を利用した"スイングバイ航法"、それに奇跡的に特化した惑星配列となる"グランドツアー"に見立てていて、状況的には前例があるような感じもしないでもない。
とはいえ「ボイジャー計画」に携わった開発者としての人間像が最後に効いてくるところ、それがこの漫画の凄みなのだ。写真のくだり、ビーフシチューのくだりは想像ついたけど、ロードスターのはよく分からなかったな。まぁ、俺が車に興味ないだけか。

前者はともかくとして、『グランドツアー』はもうちょっとネタに踏み込んで欲しい気もしました。
ただまあ、烈しく首を傾げることもなかったので、今回も十二分に楽しめました。
あとはC.M.B.。

1980年代、希書『プリニウスの博物誌』をだしにベルリンの壁を越えようとした親子。両親は車体の底に隠れ、一人息子は工作員の運転するトラックの助手席に座り、検問所は突破できたかと思われた。しかし二日後、警備兵に撃たれた息子は川に浮いているのを発見され……。『プリニウスの博物誌』
七草を探しに"隠れ里"の伝説がある山を訪れたいつものメンバー。そして案の定、山道で迷ってしまう『隠れ里』
有名建築家が自宅に設けたモザイク画。テレビの取材中、かつての同僚がその壁のなかに、先輩建築士の遺体が埋まっていると怒鳴り込んできて『モザイク』
知人の(元)整備士から幻の車【つくば号】を見せられた森羅たち。その【つくば号】にはハンドルがなかった『幻の車』

せっかくの『博物誌』との関連が薄くてちょっと拍子抜けしたんだけど、いわゆるキャラクターに対する先入観を逆手に取り、人情ドラマに転がしてみせる結構はまさに手だれたもん。何より、とあるキャラクターの正体は察したものの、30年前の新聞記事には感嘆しました。これ、Q.E.D.の『ああばんひるず6号室事件』と同じパターン、なのに気付かなかったなあ。ちくしょう。
『隠れ里』はもう、最後のコマで成り立っているようなもん。いや、隠れ里のトリックは素晴らしくよく出来てて、それだけでも佳作なんですが。事件の引き金となった瞬間の、ジジイの表情が、なんともいえないね。
『モザイク』は展開こそQ.E.D.チックなパターンなんですが、森羅だからこそ可能なガサ入れが描かれていて、なるほどなあと。というか、この作者のキャラはみんなコミカルな顔つきなんだけど、ケレンミだとか雰囲気を醸し出させるのがほんと上手。だって顔見りゃ誰が犯人だか分かるもの。
『幻の車』。まぎれもない傑作、といいたいところなんだけど、それは人間ドラマとしての出来栄えであってミステリーとしてではないところが惜しい。廃屋で起きた出来事のシークエンスは強かに胸を打つんだけど、ハンドルの在り処はちょいさっぱりしすぎ。理由はどうあれ、お前持ってたなら最初から出せや!と言ってしまいたくなるのが世の常人の常。

てことで、なんだかんだいってバリエーションのあるC.M.B.の方が毎度楽しく読める気がする。
とはいえ完成度としてはやっぱりQ.E.D.なんだよなあと再確認した次第。
いやぁ、やめられませんな。この漫画は。


もう一冊、『SFが読みたい! 2011年版』は買っていなかったので。
なんか発売時期をいつも見過ごしてしまうのね。これ。
後々でもよかったのだけど、上田早夕里女史のインタビューが載っていたので即購入。

うーーん、小説を書くってのは、とても覚悟がいることなんだなあと思いました。

小学生みたいな感想ですね。さて、寝ましょう。


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