11 eleven
津原泰水は罠師である。またしてもその罠にひっかかってしまった。
綺譚集フリークの身としてはこれが最高傑作と謳われるのをよしとしたくないんだけれども、個々の作品の出来はこちらの方が断然上。
言わば荒削りな中に毒性にも似た熱量が文脈から零れていた『綺譚集』と違い、精巧であり緻密な造花を思わせる『11 eleven』のそれはとても冷ややかで、零れ落ちる寸前に凝固しこちらを睨んでいるかのよう。
だからこそ『綺譚集』は一編一編から洩れた熱量が、一冊から放たれるアトモスフィアへと至り、類稀なる短篇集としての風格へと転じていたわけだが、
一方の『11 eleven』は暴力的な威風を感じさせることなくただ頑丈な砦としてそこにある。半ばスタイリッシュとも思しきその佇みを信頼し、門を潜ってみると、天井にも壁にも抜け穴ひとつきりなく息詰まる空間に情念が渦巻いているのを見る。逃げようかと案ずる暇もなく、壁の冷たさに肝を震わしながら奥へ奥へと進むしかないのだ。
極彩色と至上の甘みで惹きこむラフレシアの如き、血塗られた『綺譚集』。
灰色の砂地に身を潜め、疑似餌を揺らめかしながら獲物を待つ深海魚の如き、静謐なる『11 eleven』。
津原泰水は罠師である。その罠に嵌れば苦痛である。苦悶である。
だがその罠から解き放たれたときの、虚しさといったらない。
そうしてまた新たな罠が捕えてくれるのをひたすら待つのだ。罠の感触を幾度も味わい、反芻しながら。
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