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 手のひらの海に、汐はまた満ちる。それまで待とう、死ぬのは。(皆川博子『ひき潮』より) ―――吉川楡井の狂おしき創作ブログ。

-週刊 楡井ズム-

   

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『魔の十三怪談』

[解題]
《1000文字小説》というサイトに上げたとき、得票数がべらぼうに高かったので、絶対そんなことあらへんっ!と思って、いざ《短編》に投稿したら案の定散々な結果に終わったという、本当にどうでもいい茶番につき合わせてくれた。
作者として作品をみれば、ここまで現実から遠退くのは単なる暴走だなあ、と。
雛形としての可能性はあるし、きっと今の形よりも望ましい形があるだろう。悩ましい。


 一段目。
 とある女子の机の中で、死んだ蛙が見つかったのは掃除の時間。誰かの悲鳴が輪唱になって、彼女はそれ以来狂ったように飛び跳ね続け、いつの間にか学校を退めた。
 二段目。
 人一倍、シャイな彼。それを知ってる担任は、授業中、余計に彼を指導棒で指した。
 先端恐怖症だということを知ったのは、彼がシャープペンで瞳を潰した朝のこと。
 三段目。
 階段を上りきってすぐそこに教室はあった。転校初日、緊張しながらドアを開けると、そこに僕の席はなく、クラスの皆がせせら笑う。
 四段目。
 休み時間中、とある男子が大事にしていた一枚のトレカがなくなって、探しに出たまま、その子はずっと戻ってこない。
 五段目。
 机上の花瓶は割られてる。萎びた百合は床の上。
 六段目。
 生徒が持ち込んだ真刃のナイフが仇となり、やがて血の海、赤い海。
 七段目。
 クラスの誰もが知っていた。優しい先生は教室を、出てった途端に悪魔の顔つき、夜半に何をしてるかは誰も知らない。
 行方不明の女生徒以外は。
 八段目。
 掲示板の罵詈雑言。誰かの名前が書いてあったが、消されることなく教室の一部と成り果てましたとさ。
 九段目。
 体育の時間にあの子とあの娘。着替えもしないで、何してる。暗い教室の中央で、二人は口づけ交わしてる。清掃用具入れの中から、“彼”が見ていることも 知らずに。
 十段目。
 モンスターペアレンツ来襲。袋叩きにあったのは三階の端、六年二組。
 十一段目。
 六年二組の担任は、密かにそれを眺めつつ、血反吐にまみれた親を見て、自分の母だと知りました。
 十二段目。
 魔の十三階段の噂を聞いて、数えに行った、一、二、三……十二段目を踏んだ時、目の前にはドア一枚。開けると皆が待っていた。厭らしそうにほくそ笑んで。
 やっぱり僕の座席はそこにはない。
 十三段目。
 僕はすべてを白状します。
 女子の机に蛙を入れて、トレカを盗み、花瓶を倒して、ナイフを持ち込み、掲示板に名前を書き込んだのは僕。母校に戻ったのち、嫌がらせに生徒を指して、清掃用具入れにカメラを仕込み、女生徒と関係を持ち、僕の犯行に気付いた母親を生徒たちに暴行させたのも、担任である僕の仕業です。
 それもこれもかつて苛めたクラスメイトと転校ばかりさせた親が悪い。とはいえ罪を償います。
 十三階段上りきり、また新たな学び舎へ。けれどもやっぱり、そこに僕の座席はなくて、あるのは一本のロープの輪。
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