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 手のひらの海に、汐はまた満ちる。それまで待とう、死ぬのは。(皆川博子『ひき潮』より) ―――吉川楡井の狂おしき創作ブログ。

-週刊 楡井ズム-

   

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『シメールの罠』

[解題]
駄洒落シリーズ。 これは実に驚かれるのだが、小生CGアートもまた大の好物である。ただラッセンやシメールよりかは、『銀河鉄道の夜』や星座の世界など小生の血液を作品にしているKAGAYAや、RPGの世界観を一枚の額に切り取る内尾和正、フォトグラフィックを融け合わせ架空世界を描くシャイアン・コイなどがお気に入り。 そんな中、シメールと幻獣キマイラの日本語観点からの奇妙な共通点がときめいて心を離れなかった。シメールとキマイラはもちろん語源も違えば、スペルも異なる。その点、日本人だから描ける錯覚の妙であろう。 それを自覚した上で、あからさまな小坊主一休へのリスペクト。 そんな遊び心から生まれ、遊び心で肉付けされた小生独自の作品である。



 深夜の美術館は、怖気が立つほど静かでいて、館内の隅々から何かの気配と、寂寥の鳴き声が聞こえてくるようだ。巷では、夜毎、額に納められた猛獣たちの唸る声がすると評判だ。だが、それは獰猛なものではない。きっと、描いた作者の想いが伝わっているのだろう。
このSCHIMMEL美術館は、かつて環境保護をバックボーンに、地球と人類と、動物たちの共存を描くことにこだわったグラフィックアートの先駆者の作品を展示するために建設された。所蔵する作品は、五百に及ぶ。描かれているのは、宇宙と地球と虎をメインとした猛獣たち。どこか寂しげな瞳は、人類への無言のメッセージとも受け取れる。青と白と光の色彩、繊細なタッチで描かれるその姿は、リアリズムに支えられながらもシメール独自の愛敬とロマンチシズムに溢れている。
彼は数年前に他界した。彼の死後、見つかった絵も多い。CGアートがその他の古典絵画と違うのは、PCで描かれていること。つまりデータがあれば複製を幾らでも作れるということだ。だが、彼自身が印刷までプロデュースしたものは破格の値段がつけられている。それも未発表の作品と来れば……。
その特徴からか、悪徳に転売する動きがあり、贋作が多く出回った。無名のデザイナーが描いた作品を彼の作品として画廊が売り出したり、各地の絵画展で作品が盗まれるという事件も多発した。オークションで売られ、盗まれたものが全国に散らばる。それを防ぐために、CGアートとして初めて公営の美術館で展示され、やがて専用の美術館が設けられるに至った。

だが、それはそれで腕がなるというものなのだ。
俺はホワイトタイガーの連なる廊下を歩く。館内は暗い。この仕事をして、早二年。シメールのお陰で、先日ドバイに別荘が建った。腕には自信がある。俺を捕まえるには、まさに絵の中の虎を捕まえた一休のとんちでも使うこった。
最深にある特別展示ルームに入る。そのまた奥に厳重に鍵がかけられた個室、そこに宝は眠る。シメール最後の作品、彼の自画像だ。それを手に入れれば、莫大な金が手に入る。俺は鍵をさっさと開けて、個室に入る。
暗闇の中、布がかけられた額がある。目測では70×100。そっと布に手をかける。

待ち侘びたように巨大な顎が俺の頭を銜え、太い蛇の尾が首を締め付ける。
潰される視界が作品名のパネルを捉えた。
『Chimere――シメール』。それは仏語で、キマイラ。
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